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2015年7月27日月曜日

ショートショートへの怨嗟

 
 星新一という作家はアイデアを片っ端から短編にして消費してしまう。本来なら一つの長編になるようなアイデアをこのように消費してしまうから、何を出しても彼のパクリだと言われる。
 
 ∧∧
(‥ )...という怨嗟の声は
\‐  時々聞くけど
    どこまで本当なんですかね?
 
  (‥ )そういえば
      ひらめいた! と思って
      アイデアを披露したら
      午後の恐竜だった
      とかいう話があったな
 
 ∧∧
(‥ )星新一さんが書いた
\‐  午後の恐竜というと
    ネタバレすればあれだよね
    三葉虫の目撃から始まり
    恐竜が歩く幻覚が世界を
    闊歩する
    それは
    核兵器による地球滅亡と
    自らの絶滅と死を
    感じ取った地球生物が見る
    地質的なレベルでの
    走馬灯だったという話だよね
 
  (‥ )ぶっちゃけここまで
      ネタバレしてもあの短編の
      物悲しさというか
      やるせなさは読まないと
      分からないと思うけど...
      ともあれあれだ
 
 
 例えばの話、このアイデア、短編ならきれいにまとまるけど、長編にできるものなの?
 
 ∧∧
( ‥)長編にするのなら
    例えば...途中でこれは
    俺たち全員の走馬灯だと
    気づいただれかが
    死を回避するために
    行動する話にしなくちゃ
    駄目ですかね?
 
  ( ‥)そしてそうしたら
    ‐/ 午後の恐竜の持つ
       あのイメージは
       違うものに変質するの
       だろうなあ
 
 違うものに変質するのなら、それはもうオリジナルだ。だったらぱくれば良いじゃない。

 それでもなお、これってぱくりだろ? とかいう人がいたら、うるさいと言えばいい。
 
 ∧∧
( ‥)まあ
    これって○○のぱくりだろ?
    と心ない事を言う人が
    世の中にはいますから
   
  (‥ )まあなあ
      おれもさっき
      思ったしな
 
 なんぞ、漫画の紹介をネットで目撃した。それは菌類が人間を複製する物語。
 
 ああ、これって「ゼロの怪物ヌル」のぱくりだよね。
 
 そう思った。
 
 *ちなみにヌルの作者は多くの人にとって意外な人物である=>ゼロの怪物ヌル - Google 検索
 
 ∧∧
( ‥)この漫画
    ヌルのぱくりだろって
    あんた心ない人だね...
 
  ( ‥)でもだからって否定は
    ‐/ しないよ
       思っただけさ
 
 
 エヴァンゲリオンの人類補完計画を「幼年期の終わり」のぱくりと人は言う。確かに自分も、ああ補完計画って幼年期の終わりだったのか、それもとびきりグロテスクな奴、とは思った。
 
 思ったが、そもそも幼年期の終わり自体が「ヨハネの黙示録」のぱくりだし、ヨハネの黙示録はヘラクレス神話の、さらにそれはメソポタミアとシュメールの神話にさかのぼる。
 
 天地が分たれた時、海は戦をしかけてきた。配下の化け物、怪物、多頭の竜が海より這い上がり、戦いを挑んでくる。迎え撃つは無双のマルドゥク。そして黙示録にも曰く、海より上がり、地上を汚さんとする多頭の竜。
 
 ∧∧
(‥ )それを考えると
\‐  エヴァンゲリオンは
    シュメール神話の子孫
    だけどもずいぶんと
    変わっちゃいましたね
 
  (‥ )幼年期の終わりよりは
      伝統に忠実なんだがな
      海よりやってくる
      異形の怪物たち
      戦いの果てにくるは
      大虐殺と世界の変貌
      新世界の到来
      しかし別物だ
 
 それを考えると、ぱくりだなんだと小賢しい。
 
 人間は無駄を追求して脳を肥大化させた。その悪しき習性で、それは何々であると誰かに自分の無駄な知識をひけらかさないと気が済まないのだ。
 
 まるで1000冊を読まないとSFは分からないと豪語する時代遅れの遺物と化したSFマニアのように。それを人は最悪の意味でオタクと呼ぶ。
 
 *データを巨大化させると答えが確実に間違うことを考えると、1000冊と言った時点で、発言者が五里霧中に陥っていることは明らかである。
 
 
 それにしても逆に考えるとだ。長編小説を星新一がショートショートとして書いたらどうなるのだ?
 
 ∧∧
( ‥)アイデアが同じでも
    別物になるだろうと
 
  (‥ )小説のサイズが変わって
      しまうわけだからね
      同じものたりえないよな
 
 例えば星新一が砂の惑星を書いたらどうなるだろう?
 
 ∧∧
(‥ )砂の惑星のどのアイデアを
\‐  使えばショートショートに
    なりますかね?
 
  (‥ )んー あれかな?
      ギルドはスパイスの産出に
      直接関与できない
      その部分かな?
 
 人類が自ら生み出した人工知能を戦いで打倒し、抹殺した後、人は大演算抜きで航路を発見できるよう、時間の先を見通す能力と、それを増幅するスパイスに頼るようになった。
 
 このような能力と技能は非常に特殊なので、必然、交易と運輸はすべてギルドが掌握、独占するに至る。
 
 しかし、これほどの権力を持ちながら、ギルドはスパイスの産出に直接関与することはない。
 
 ∧∧
(‥ )ショートショートにしたら
\‐   これを簡略に
     会話で説明しないと
     いけない
 
  (‥ )スパイスを産出する惑星に
      降下しながら
      これ以上の供給不安は
      もはや容認できません!
      反乱はただちに
      鎮圧するべきだ!
      そう居丈高にギルドが
      皇帝をせっつくとか...かな
 
 ∧∧
( ‥)親征した皇帝は
    ギルドにこの戦いの
    見通しを尋ねるでしょう
 
  (‥ )だけど曖昧な答えしか
      返ってこないだろうな
 
 もちろん、俗権の王者である皇帝にとって、未来を見通す力など占い師の能力も同じだ。問いに答えてもらえぬとて、歯牙にもかけぬだろう。無敵の軍勢で反乱軍を押しつぶすのみ。それこそが王者。
 
 だが、戦いが混乱に向かう中、皇帝は道を見通す者であるギルドが曖昧にしか答えなかったことの意味に気がつくだろう。
 
 ∧∧
( ‥)まず気づくべきは
    スパイスの供給を誰が
    掌握するのか?
    それが不確定なのではないか
    という疑惑
    思ったよりもはるかに強い敵
    この戦いの帰趨が不明だから
    未来が決していない
    そういうことではないか?
 
  (‥ )それはギルドに否定される
      だろうな
      誰がスパイス供給を
      掌握しようとも
      ギルドは
      スパイスの供給がある限り
      道を示すことができる
      掌握の不確定さは
      未来に干渉しない
 
 だが、そう答える当のギルドが今この瞬間、未来を見ても道を示せない。
 
 皇帝はさらなる疑惑を持つだろう。道を示せないとはすでに干渉されているということではないのか?
 
 それは無い。ギルドは答えるだろう。予知の原泉であるスパイスの掌握に予知能力を使わない限り、干渉は起こらない。
 
 ∧∧
( ‥)それこそ
    ギルドがスパイス供給に
    直接関与しない原因
 
  (‥ )予知の原因を
      結果である予知そのもので
      操作する
      これは因果律の混乱だ
 
 これゆえにギルドは、皇帝をしのぐ力を持ちながら帝国の全権を掌握しなかった。できなかったのだ。
 
 スパイスを掌握するのは勝利者。それは皇帝、あなたか、あるいは敵であるあのムアドディブ。呪われたウィル・オブ・ザ・サンド、すなわち砂の怪物、このどちらかだ。干渉はありえない。
 
 だがなおもギルドは未来を見通せない。
 
 見通せぬ未来を力でねじふせてきた皇帝ならば気がつくだろう。
 
 この答えは明瞭である。

 干渉されているとは、勝利者たる者のどちらかが干渉する者、予知能力者なのだ。そして自分は予知能力者ではない。だとしたら、敵、膨大な軍勢を率いる復讐者ポウル・ムアドディブこそが干渉者。そして未来においてすでに干渉が起きているとは、この戦いの帰趨はもはや明らか。いや、そもそも結果は最初から...
 
 轟く轟音、はぜ飛ぶ防壁、スパイスの香りを巻き上げながら吹き込む砂嵐と共に、大本営玉座の大広間になだれ込む血塗られた軍勢たち。そしてモーゼが海を割るがごとく、軍団より歩み出る若者が一人。
 
 陛下、あなたが今気づかれた通りです。ギルドの使いはヒントは出すものの、分別ある頭を持っておりませんな。
 
 
 ∧∧
(‥ )星新一さんがこんな話を
\‐  書くかどうかはともかく
    こうなると
    もはや別物ですね
 
  (‥ )砂の惑星は基本的には
      ごく単純で王道な
      英雄譚だからな
      そういう部分が
      まったく無いよね
 
 そもそもショートショートはそういう表現にあまり向いているとは思えない。そして別物になってしまうのなら、ぱくってしまえば良いじゃない。そして、これが論証すべきことであった。
 
 
 
 
 *一応、書いておくと、事変が起こる前にギルドが「未来に問題がある」と訴えたこと、予知能力者であるがゆえにギルドがスパイス供給に関わることを避けていたことは原作で説明されている。
 
 

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