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2013年4月21日日曜日

挫折した計画、達観する夢

 
 
 ∧∧
( ‥)何?
 
  ( ‥)いやさ、ナウシカって
    –□ 原作だとトルメキアと
       土鬼という二大大国の
       戦争が舞台だけども。
 
 まあ、そんな寒い描写はないけど内容はほぼ独ソ戦。
 
 ∧∧
( ‥)でも連載途中でソ連は崩壊
 
  (‥ )モデルにした国が崩壊した。
      監督さんがそう言っていた
      記憶があるんだよね。
      うろ覚えだけど。
 
 いずれにせよ、一方の大国、土鬼諸侯国連合帝国は作中、後半で崩壊。トルメキアを統べるヴ王はこれを機会に帝国の首都シュワを攻略する。
 
  (‥ )モスクワ攻略。
 
 ∧∧
( ‥)まあ、そういう解釈も
    出来ますね。
 
 聖なる都シュワには墓所なるものがあるという。超絶的な技術の発信源。世界をある方向へ導こうとする何らかの計画と意図がもれてくる。
 
 ∧∧
( ‥)まあ、それは人造生態系に
    よる汚染浄化。旧人類の抹殺
    理想的な新人類の孵化による
    世界再構築計画であったと
 
  (‥ )しかし予定され、確定された
      計画は現実と齟齬をきたし
      数々の災厄をもたらしている
  
 これってマルクス主義だよね?
 
 ∧∧
( ‥)まあ、解釈は自由ですよ
 
  ( ‥)主人公は計画に否を
    –□ つきつけて、
       計画実行者を殺害
       未来を偶然と進化に
       たくすのだけど、
 
 なんだよ、これは「地球へ」のぱくりじゃねえかよ、そう言った人もいた。
 
 別にそんなの良いじゃんよ、そう思うし、それはともかくとして
 
 ∧∧
( ‥)まあ、マルクス主義には計画と
    決定論しかなくて、
    ソ連では統計学が弾圧された
    そのことを考えると、
    構図としてはあってますね。
 
  (‥ )マルクス主義ってのは
      18世紀ばりの
      古典物理的な
      世界観なんだよね。
      進化学が出現し、
      確率と統計学が現れた
      19世紀後半以降は
      決定的な時代遅れになる。

 というか、マルクス自体が生きていた時から、マルクス主義は時代遅れになり始めたのだった。
 
 時代遅れになるばかりではない。計画は現実と齟齬をきたし、理想郷がやってくるという決定論的な予言を守るには、楽園を嘘で塗り固めるしかなかった。地上の楽園は偽りの世界に成り果てた。
 
 
  (‥ )ほら、まんまだ。
 
 ∧∧
( ‥)まあ、解釈自体は色々と
    出来るでしょう。
 
 面白いのは、都を攻略し、大量の財宝、金貨を略奪したヴ王は、しかし、それを兵士に分け与えよ、朕の目的は墓所だ、と、それらを無視して墓まっしぐら。
 
 そんなに欲しいのか。墓所の秘密。
 
 ∧∧
( ‥)そのヴ王さんが、墓所の目的
    計画を知った時、
    えー? って顔で、
    墓の言う通りにすれば
    不老不死も手に出来るのに
    それを蹴っちゃうのですよね
 
  (‥ )あれさあ、
      単行本になった時に
      書き換えられたけど、
      ヴ王は
      こんなくだらん世界で
      不老不死など望まん!
      というような台詞を吐くの
      だよな。
 
 記憶だけど、確かそうだった。

 
 軽い皮肉屋が口にするような言葉でいて、しかし権力闘争を生き抜いた人が口にすると、まるで血を吐くような言葉。
 
 ∧∧
( ‥)..本音、出ちゃいましたかね?
 
 ( ‥)ああいう世代の苦しみは
   –□ 僕らにはまったく分からん
 
 子供の時にテレビで目にしたのは寒い灰色のモスクワでぞろぞろと並ぶ人々の姿だった。ベルリンの壁が崩壊し、ソ連解体後のロシアにいった人はこう言った。ホテルの朝食がバイキングなんだが、一周りしても食べたくなるものなんてどこにもなく、しょうがなく、焼けこげた薄っぺらいベーコンをまず皿に乗せ、それからつぶれた目玉焼きをとったと。当時、ルーブルは紙くず同然で、それゆえ、出国の際、あまったルーブルを円に両替してくれないのである。怒ったみんなはルーブルをびりびりに破り捨てて、ばいばーい、と空港のゴミ箱に捨てたそうだ。ロシア人たちはそれを見ていた。
 
 ∧∧
( ‥)マルクス主義に失望する
    ウンヌン以前に、
    マルクス主義なんて
    ただの失敗作だと
    分かっていた時代
 
  (‥ )そんな時代に成長した
      僕のような世代には、
      理想と夢の計画、
      その失敗と失望感は
      分からんよね。
 
 ∧∧
(‥ )仮にそうだとすると、
\–   あの作品が重厚なのは
     そういうことも
     あるんですかね?
 
  (‥ )そもそも知識や経験が
      多いってことじゃねえか?
 
 知識がないと経験の理解が薄っぺらになるし、経験がないと知識が薄っぺらなままになる。
 
 冷戦終結後に起こったユーゴ内紛と民族浄化だって、火薬庫バルカン半島とかそういう知識があるのと無いのとでは、感じるインパクトが全然違うだろう。
 
 
 
 *実際、ユーゴ内戦を反映した話はナウシカに出てくる。
 
 **ここではかの物語の自然観が、せいぜい今西錦司的な”自然は個々のユニットが目的を持って調整し合う、合目的なシステムである”程度のものでしかないのではないか? 進化と変異と生態系に対する理解が不十分ではないか? という指摘や疑問や意見は省略しています。
 
 ***人によっては墓の目的が科学者としては馬鹿すぎる、この科学観はおかしい、と違和感を指摘する。だけども、あれがマルクス主義だと考えると理解はしやすい。実際、一世代前の痛い人たちが持っていた科学観とは、マルクス主義的な論理と正しさを連呼するのみで、すかすかの薄っぺらだった。彼らが書いた本を読んでると頭痛がしてきます。
 
 
 
      
 
   

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