自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2015年9月5日土曜日
SFと宇宙生物は合理的であり、それが問題
アイザックアシモフ博士が書いた[Is Anyone There ?] 1967年の本。邦題は「生命と非生命の間」 出版は1978年。
この23章で「火星人の解剖学」として、アシモフ博士は火星人を考察し、火星の環境で生きられるその姿を描写した。
∧∧
(‥ )探査機マリナー4号が
\‐ 火星の荒涼たる姿を
明らかにした直後の
エッセイだよね
(‥ )改めて読むとあれだ
SF作家って生物系の知識は
あまり持ってないよね
もちろん、これをアシモフ博士や、そのエッセイに言うのは言い過ぎである。博士はまず化学者だ。しかしそれ以前に、「火星人の解剖学」の主旨はちょっと特殊だ。探査機が明らかにした火星の環境に対する、SF作家最後の挑戦だったと考えた方が良いのだろう。
∧∧
( ‥)気圧は地球の100分の1
気温は事実上氷点下で
夜になるとマイナス100度を
はるかに下回る火星の世界
( ‥)探査機到達以前はさ
‐/ 寒くても
南極ぐらいじゃないか
とか
空気は薄いけど
地球の高山ぐらいじゃね
と思われていたからね
地衣類程度なら
火星にいる余地が
まだしもあったのだよな
しかし明かされた火星は予想をはるか越える過酷な環境。火星人どころか火星地衣類の可能性も消え、火星生物発見の見込みは断たれた。
そんな中でアシモフ博士が思い描いた異星の人。
可能性が断たれてもなお、火星生物の残響がまだ残る時代の中に思い描かれた、つまりこれこそ最後の火星人。
夜の低温に適応した二重の皮膚、白い羽毛、呼吸しない体、酸素を運ぶ必要の無い無色の血液、黄色い皮膚、太陽の紫外線から直接代謝エネルギーを得るために広げる翼のごとき膜。黄金色の翼と白い羽毛で輝き、まるで天使を思わせる異形の長駆。
∧∧
(‥ )でもさすがにこのような想像は
\‐ ご都合主義の域を出ませんか
(‥ )無茶ぶりな環境の中で
火星の人間なんてものを
設定するわけだからね
無理は承知で
ご都合主義は必然よ
火星人とその食物の
地衣類みたいなものしか
登場しないしな
しかし、それを考慮して考えても思う。
SF作家の考える宇宙生物や宇宙人は、合理的すぎる。生物として薄っぺらいとも言える。
例えば、生物は未来を知る力が無い。節足動物は巨大化が出来ない構造で、それゆえに地球の覇王としての立場は脊椎動物に奪われてしまった。
∧∧
( ‥)節足動物は進化の過程で
たまたま採用した仕組みに
拘束されて
このような
制限を受けたのである
生物には痕跡器官を含めて
体の各所に歴史がある
(‥ )人間の耳たぶだって
祖先が聴覚に頼っていた
時代の名残りだしな
それを考えると
合理的に想像された人類は
耳たぶを持っていないことに
なるよね
視力に頼った生物でありながら、耳たぶを持つ。人間のこのような特性はSF作家が持つ合理的な発想では再現出来ないということでもあろう。
あともうひとつ、興味深い部分が思い当たる。
SFの宇宙生物には性淘汰が無い。アシモフ博士の火星人にもこれが無いようである。
*一応弁護すると、性淘汰を考えたのはダーウィンだが、あまりにも突飛な説だったので、見直されて再検討され始めたのは1980年代の後半からである。アシモフ博士の火星人にこれが無いのは当然。それに、仮に時系列を無視しても、性淘汰を書くのは以上のエッセイの主旨に沿っていない。
∧∧
(‥ )いずれにせよ
\‐ SFに出てくる宇宙生物は
性淘汰の影が
すごく希薄ですよね
たまに
角がある宇宙人とか
角がある方が偉い異種族とか
出てくるけど
そんなぐらいですかね?
(‥ )SFの宇宙生物は
合理的なんだよな
だから
”無駄なんだけども
勢いでこんなのが
進化しちゃいました”
そういう
非合理的であるがゆえに
進化した器官が
まるで見当たらない
あったとしても
地球の生物を
なんとなく真似た
結果でしかないよね
例えば、人間が体毛を失ったのは合理的な理由で説明するのが難しい。
むしろ、毛が無い方が魅力的だったので人間は体毛を失いました、という性淘汰的な説明があったりもする。
つまり性淘汰抜きの宇宙生物観は、体毛を失った人間のことすら説明できないことになる。
∧∧
(‥ )確かにSFの宇宙人って
\‐ 役立つ器官の列挙はあるけど
不要で過剰な器官の存在
あるいは
必要なのに過剰喪失した
器官に関する記述は
ないかもね
(‥ )あるとしても
未知の存在であることを
強調する文脈で
語られる程度かな
性淘汰という概念がないのは、SFの致命的な欠点なんだろう。
∧∧
(‥ )なにもかもSF作家が
\‐ 合理的なのがいけない
そういうことですかね
(‥ )SFに限らず
作家というのは
基本的に合理的だからな
これは創作の
根本問題なのだろうね
ファンタジー小説でも
登場する生物は
なんじゃこりゃ
だからな
あるいは、登場するその場、その場の生物は設定できるが、歴史の過去までさかのぼって設定するのには無理があるだけだとも言える。
しかし、考えが合理的だと、労力的に無理になるだけではすまない。発想自体が無いから可能なものも不可能になるのだ。
合理主義では現実らしさは再現できない。そういうことなんだろう。
さて、それはそれとしても、キャプテン・フューチャーに出てくる水星のサンドッグはもうちょっとなんとかしてくれないものか。
∧∧
(‥ )こちらは作家が
\‐ エドモンド・ハミルトンさん
サンドッグは例えば
「謎の宇宙船強奪団」で
少しだけ登場するやつだね
水星の高温昼世界側で
生活している硅素生物
*昼世界:当時は水星が太陽に永久に同じ面を向けていると考えられていた。つまり惑星の半分は永久に昼間である。これが昼世界。原文ではホット・サイド(焦熱側)らしい。
(‥ )鉛も溶かす高温の
昼世界にすむのが
岩を食う硅素生物なのは
良いとしてもだな
どうしてサンドッグ
つまり太陽犬なんだよ
岩を食うのなら、そいつの立ち位置ってイヌのような肉食獣じゃなくて、むしろヌーのような草食獣じゃねえの?
∧∧
( ‥)ヌーみたいだけど
形がイヌっぽいんだよ
( ‥)そうとでも解釈しないと
‐/ どうにも
困ってしまうね
こういう設定は作品の質自体には影響しないだろうけども、釈然としないものがあるのだ。
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