*の続き
∧∧
( ‥)なんと?
( ‥)いやあ、先に話題にしたお話に比べると
「風の谷のナウシカ」ってずいぶん
良心的な物語で設定だと
思ってさ。
∧∧
( ‥)どう?
(‥ )だって、あれ、ゴミ山を漁って
廃品回収することで、
文明をなんとか維持している。
そういう世界だろ?
複雑高度な技術体系が戦争(調停者による強制的な調停を戦争と呼んでいいのか? という疑問は置いておくにしても)で崩壊してしまい、原理は理解できないけども、過去のエンジンとか器具を掘り出して使ったり、過去の遺物の外装を削りだして剣や鎧に使っている世界。
∧∧
( ‥)風車とかいかにもエコな感じの
牧歌的風景の裏にはそういう
あーあーという事実があるのだと。
( ‥)産業革命以前の世界であるのに
機械がある、つまり産業世界が
外部にある。それをちゃんと
示しているわけだよな。
外部というのはこの場合、時間の向こう、過去にある、という意味で。そういう点では良心的だし、よく考えられた設定でもあるよなあ。と。
まあ、牧歌的な、、ということさえあくまで見た目で
∧∧
( ‥)あの世界、露骨に生活厳しそう
ですからね。
(‥ )年々人口が減っているって描写が
あったもんな。
狂ったようにはびこる森。でも、それが環境を浄化してくれているって話も
∧∧
( ‥)日本の森の保水とかも念頭にあるんでしょうけど
あれも結局は人工の産物ですもんね
( ‥)目的のある生態系なんて
-□ 今西錦司なら大喜びしそうだけど
そんなもん、この世界には存在しない。
そりゃあ、ご都合主義なものは人工の産物に決まっているさね(とはいえ、腐海も一応は生物であって、世代交代しているにも関わらず、今だに初期に与えられた役割を果たすように機能しているのは実に不思議である)
うろ覚えの台詞だけども
「有毒ガスの中で、マスクをしただけで、素肌をさらしているのに平気であることをおかしいと思わなかったのかね?」
あれは、なんか好きなんだよね。「おかしいだろ?」「そうだよねえ」という当たり前な会話なところが。
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( ‥)ガスマスクしかしていないことは
普通は演出上の理由だよね、
で話が終わるのですけどね。
( ‥)真面目に考えると一番おかしな
-□ 描写のひとつでもあるのだけどな。
演出上の都合、でも問題ない。
しかしそれを逆手にとったものか、有毒ガスがあっても平気なように遺伝的に改造されてます、逆に言うとこの世界の人たち、有毒物質がないと死んじゃうの、ごめんね、という設定に落とし込んで来た。
∧∧
( ‥)だから浄化プロジェクトが完了したら
現時点の人類は滅びる。その時のために
新しく調整された人類を保存し、移行しよう。
(‥ )そういう決定論なプロジェクトって
うまくいかないし、うざいから
ふっとばしちゃおうね、という
オチでね。
そりゃああれだ、19世紀から亡命してきたような時代遅れのカビ臭い決定論の牢獄を今さら押し付けられたらたまらない。時代にも現実にも適合できないようなお前は死ねよ、と言うだろうし、その判断を下すだろうし、事実、物語はその判断で終了する。
∧∧
( ‥)時代を感じます?
( ‥)感じるねえ。おいちゃんたちより
-□ 上の世代の人間は今西進化論とか
決定論の亡霊に取り付かれた
マルクス主義とかに浸食された
人々だし。
今西進化論は生物に目的があるかのように論じて自然を解釈したけども、それはまるっきり自然の理解には使えなかった。科学の世界ではなんら成果も上げられずに終了。
マルクス主義は成立した時点からすでに時代遅れになりつつあった。あれはニュートン的な決定論の世界の伝統を引きずっていて、確率論が勃興し始める19〜20世紀には乗り遅れた。旧ソ連では確率論はむしろ弾圧されて、しかし、そういう剛直さが現実と乖離したせいか、終了。
これらに翻弄され、もう今となっては考え方を変えられず、すでに是正が効かないか、あるいは脱出しようともがき苦しんだのが、今の50代以上とかそのくらいの世代だし
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( ‥)先の物語も結局は自然淘汰にまかせよ
-□ いつか適合した子孫が生じるかもね
それでおしまい。
(‥ )あのお話で好意的に描かれるものも
否定的に描かれるものも、
科学の世界ではとっくに用済みに
なっているか、とっくに承知の
事実だったりするのよね。
今西進化論やマルクス主義を信じた世代と、それを古ぼけた、時代遅れの色あせたガラクタにしか見れない世代とでは、感じる苦しみも痛みも違う。
理解の根底にある仮説や理論さえ違う。言い換えると、同じものを見ても理解に絶望的な違いがある。そこには世代間のギャップがあって、それはより適合した理解を誰から、どんなテストを経てどう受け継いだのかの違いでもある。
その違いは努力とかでは埋められない。年齢を重ねると特にそうだ。
だから時代を感じる。
そういえばアーシュラ・K・ルグイン(ゲド戦記の原作者でもある)の小説、「闇の左手」も今から思えば時代を感じるお話の一つではなかろうか。
*注:闇の左手、ごく大雑把にいうと何千年か未来。過去の人類が放棄した植民惑星を見つけたところ、そこの住人はどういうわけか遺伝的に改造されていて、通常は男女のどちらでもない未分化状態。月齢に対応する形で、新月に発情期に入った時に男女いずれかの性に変貌する。友人が恋人になる世界にやってきた主人公は、、というお話(*あの国王陛下はヤンデレだよな)。
( ‥)男女/雌雄の行動の差には何があるのか?
-□ 生物学や進化学はこの点で近年、
急激に理解を深めたからなあ。
∧∧
( ‥)それ以前に若者であった世代と、
それ以後に若者であった世代とでは
理解の差が絶望的にあるでしょうね。
でっ
∧∧
( ‥)以上、これらの話が何と?
( ‥)このたびの原発事故ではどうも
エコとかナウシカとか連想する人も
多かったらしくてね。
例の水車のある村の話も、どうやら黒澤明監督の「夢」であったらしい。これも連想した人がそれなりにいた模様。
∧∧
( ‥)あなた自身、思い出してますしね
( ‥)感じ方がずいぶん違っている
-□ けどもね。
∧∧
( ‥)世代間のギャップを感じますか?
(‥ )それ以前にだな、ゴミ山から廃品回収、
テクノロジーが失われたのでやむを得ず
ローテクの風車を動力に使っている
世界を見てだな、
それを自然だ、エコだ、と語られてもなあ。まあ、リサイクルではあるけども。
なんていうの? 昔、ヒッピーたちが「俺たちは文明から自由になるんだ!!」といって、都市から出る廃棄物を使ってキャンプを作り上げていた痛さを連想するというか。
∧∧
( ‥)結局は産業世界の手のひらから
一歩たりとも出られないのだと。
( ‥)夏になったら原発動かせ!!
クーラー使わせろ!!と
言い出すのがオチだよな、とね。
それを踏まえると、ナウシカって作品はだいぶん良心的で、その分、いやーんな作品だとも言える。まあ、だから価値があるというべきか?
エントロピーの法則のせいだかなんだか知らないけども、人生良い方向にはそうそう動かないし、かつての夢はガラクタに成り果てました。
(‥ )だから人生も夢もあきらめろと。
∧∧
( ‥)はあ
未来に希望を持ってどうする? 希望も夢もあこがれであるが、それゆえに高望みだ。地に足ついていないから、飛ぼうとしても転ぶのがオチ。
∧∧
( ‥)どうすりゃいいんですかね?
(‥ )飛ぼうとするから落ちるんだ。
歩けばいいんじゃねーの?