ミクロラプトル。白亜紀の前期、中国にいた奇妙で小さな恐竜。大きさ、というかボリュームはカラスぐらってところか。鳥を抜かした恐竜の中では、ざっくりとしたくくりでなら最小の部類に入る。
さて、この恐竜、前足が翼になっているのみならず、なんとも珍妙なことに人間で言うところの足の甲、つまり中足骨からも風切り羽がのびている。この後ろ足の”翼”をどう復元するのかが研究者であろうが、イラストを描くイラストレーターであろうが悩みどころ。
まずそもそも翼がどっち向き、横に生えているのか、後ろに生えているのかが分からない。たぶん、後ろ向きに伸びていたのだろうと言われるが(しかしこれを論証するのは不可能ではないがとても大変だろう)、だとすると翼として機能するには足(脚ではなく)を横に向ける必要がある。
∧∧
( ‥)そこが問題になるわけですよね。恐竜の大腿骨には
そんな股割りなど不可能であると。
(‥ )そーなんだよねー。
恐竜の大腿骨の骨頭はちょうどLを逆さにしたような形になっていて、腰の骨のソケットのような穴にはまり込む形で関節する。ようするに非常に動きが制限される構造で原則的に前後にしか旋回ができない。ようするに走るには非常に向いているが股割りをするといった、哺乳類のような柔軟性はない。樹に登るのは不向きであるし、事実、空中を自在に飛べる鳥以外、樹上性と思われる恐竜は原則として存在しないか、あるいは樹上生活者と思われるものがごく少数いるだけで、しかもそれを支持する証拠はあまり多くない。
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( ‥)でっ、あなたの場合、ミクロラプトルの復元は”ああいう”
形にするわけですよね。
(‥ )まあ、一見すると股割りなんだけどね。
さて、ここで? と思う人もいるやもしれぬ。股割りできないと知っているのに股割りとはこれいかに?
というか実際にそういう人がいた。例のオレ様理論で鳥の進化をあーでもないこーでもないと議論(というのか?)をしているどっかの掲示板。ああー、北村って人の描くミクロラプトルの姿勢は”股割り”ですねえー。おかしーですよねー、というご感想を見たことがある。
ようするにこういう論法らしい。
恐竜は股割りはできない。ミクロラプトルは恐竜であるのだから、股割りはできず、そして足を外に向けることもできない。だからこういう股割りの姿勢で復元画を描くことは間違いである。
さてしかし、以上の文章には実は明らかな間違いが、それも複数ある。あるいは論理に飛躍があるか、カテゴリーの包含関係が破綻しているか非現実的というべき状況になっている
あるいは
(‥ )あるいはあれだな、この文章が正確であるためには
幾つかの前提が必要だが、その前提についてこの文章、
それ自体は何も語っておらず、ゆえにこれだけでは
正しいとはとても言えないって状況だな。
∧∧
( ‥)まあそうかもしれませんね。
その文章が正確であると言うには、文章が暗黙のうちに正しいと前提している事柄が本当に正しいのかを調べなくてはいけない。
そしてかつまた、我々は”これはこうに違いない”という前提や仮説に基づかないと物事を把握できない。ということは、
∧∧
( ‥)ということは知らず知らずのうちに勝手な説明を
挿入して、それだけでは正しいとは言えない文章を
”正しい”と思い込んでしまっている。そういうことでも
ありますね。
(‥ )そこなんだよねえ。
先の文章を矛盾の無い正しい文章とみなすのか、それともまったくのたわ言で間違いであり現実を語っていないと見るのか、それは受け取る側の持っている仮説次第だということでもある。
∧∧
( ‥)でもそれだけだと主観的な話ですよね?
客観的には白黒つけられるんですか?
(‥ )ものを見ればいいんじゃねーの?