自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2016年5月24日火曜日
パッチワークの世界
キリスト暦1403年、スペイン王からティムールに派遣された使節の見聞録、それが「チムール帝国紀行」。
∧∧
(‥ )この紀行文
\− 黒海南岸に当時あった
トレビゾンド帝国の首都から
現在のトルコ東部を抜けて
イランに入るわけだけど
(‥ )アルメニア人が
いっぱいいるんだよね
現在の国家、アルメニアはもっと東、トルコ共和国の東にあるが、現在のトルコ国内にも大勢のアルメニア人がいたのだ。
皇帝や独裁者が中心となった多民族国家はかつては幾つもあった。しかし、そうした帝国は西欧民主主義が影響力を強めた19世紀後半になると、ナショナリズムの高まりと民族紛争で内乱や瓦解を始める。ハプスブルク帝国しかり、オスマントルコ帝国しかり。
∧∧
(‥ )この時、トルコ国内で
\− アルメニア人と内戦
さらに虐殺が起こったと
言われているよね
(‥ )それより500年前
チムール帝国紀行の
1403年当時
とても複雑な状況が
書かれているんだよな
アルメニア人の町で、長官もアルメニア人。あるいはアルメニア人の町だけど統治するのはイスラム教徒の長官。あるいはアルメニア人の村とイスラム教徒の村が隣り合っていたり、はたまた、アルメニア人の中になんとローマカトリックを信仰する集団があったり、はたまたイスラム聖者が集まった変人だらけの村があったりと、なんとも複雑、てんでばらんばらんである。
∧∧
( ‥)そもそもトレビゾンド帝国
からして
キリスト教徒だけど
イスラム教徒の
ティムールに服属しているし
(‥ )アルメニア人キリスト教徒と
イスラム教徒との仲も
なんともいえないものだ
ティムールはキリスト教徒に対して不信感を持っていた。なぜならオスマントルコと戦う時、共同戦線を申し出てきたローマ帝国(ビザンチン帝国)が、約束を果たさなかったからだ。そう作者であるクラヴィホは述べている。
ゆえにティムールはキリスト教の寺院を破壊することもしている。
あるいは、イスラム教徒に先住のアルメニア人の多くが追い払われた町もあったという。
∧∧
(‥ )でもトレビゾンド帝国は
\− キリスト教徒のまま
ティムールに服属しているし
ティムールさんも金を奪ったり
教会を壊しただけで
大虐殺しているわけでも
ないですよね
スペインの使節だって
スペイン王を
我が弟呼ばわりだけど
丁寧に迎えてくれるし
(‥ )イスラム世界では
イスラム教徒が一級市民で
異教徒はいわば
保護下にある
二級市民なんだよな
だから、彼らの”共存”を過大に評価してはいけないだろう。
これが共存共栄の多文化共生、見目麗しい平和の世界だと言うのなら、アメリカに人種差別など無いことになるだろう。
∧∧
( ‥)でもだからといって
民族浄化があったわけでも
ないのである
(‥ )状況が悪化していくのは
国家が民主主義化した
後なんだよな
考えてみれば分かるように思う。
同じ日本人でも違う村同士では仲が悪いことがある。
だが違う村であればやっていけるだろう。
イスラム教徒優勢とはいえ、アルメニア人なり、あるいはキリスト教徒なり、それぞればらばらに村で暮らしていればなんてことはないだろう。
実際、多くの人は村から一生でないで終わるのかもしれないし、いくにしても親戚の村へいく程度かもしれない。
独裁者の意志だって、そんな大層なものじゃない。独裁者は金が欲しいだけだ。それは遊ぶ金かもしれないし、外交という接待費かもしれないし、維持費かもしれないし、建設費かもしれないし、軍隊を運営する費用かもしれない。
ティムールだって教会を救いたかったら金払えと言って、金を奪ってから教会を破壊したりするのである(しかしだからといって殺しているわけでもない)。
∧∧
( ‥)軍隊や国家の接待交際費を
かせぐのは大変ですからな
金さえもらって
気に入らない連中の
教会を破壊してすますのは
暴虐と言えば暴虐だけど
暴虐だというだけの
話ですなあ
(‥ )ところがさ民主主義は
選挙という
もっとひどいことを
始めるんだよ
今まで様々な条件、状況、立場だけどもお互いにそれほど関わりを持たず、閉じた世界でそれぞれやってきた人たちが、いきなり選挙結果という定義を、しかも上から一律に押し付けられたらどうなるか?
それは言って見れば、その地域の投票で決定されたご飯と味付けを全家庭に強制するようなものではないのか?
そりゃ、戦争起こるだろう。
∧∧
(‥ )各家庭それぞれに
\− 匂いがあるように
各家庭それぞれに
実は異なる文化が
ありますからなあ
嫁姑戦争もそういうものだし
(‥ )それを考えると
中東のような世界で
民主主義なんてやったら
殺し合いが始まるの
当たり前だよね
そもそも民主主義は小さく均一で相互監視が激しい都市国家から始まったし、西欧諸国だって民主化の前の長い時間、何世紀もかけて国内の異教徒や異端を西欧内部で十字軍して片っ端から殺し続けた歴史がある。
∧∧
( ‥)悪く言うと西欧は
民主化に必要な民族浄化を
何世紀もかけて
すませてきた歴史が
あるのだと
(‥ )それを考えると
トルコは人権を軽視して
いるというEUの批判を
トルコが怒るのは
当たり前かもね
もちろん、EUの批判は少なくとも正しい。民族浄化はしてはならぬであろう。
だが、トルコの言い分も正しかろう。少なくとも何世紀も民族浄化し続けて民主主義の下地を作ってきた西欧にいけしゃあしゃあと言われたくはあるまい。
∧∧
(‥ )でもこういう問題も
\− 終わっていくのでしょうね
(‥ )民主主義は今
終焉の道を
歩み始めたからな
民主主義終焉まで、何年かかるのか? それは知らないけども少なくとも言えることはある。独立した社会が点在するパッチワークの世界。そういう世界は民主主義を否定しない限り、いつまでたっても不安定であるし、いつまでもたっても不安定であるとしたら、独裁という安定解へ平衡するであろうと。
∧∧
( ‥)問題は誰が王者になり
どういう独裁をするかですね
(‥ )フセイン政権は
相手の足が千切れるまで
叩き続けるような拷問を
したって話があるが
そういう痛いことは
止めて欲しいよね
ティムールはどうであったのか? 過去の王者たちはどうしたであろうや?
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