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2016年5月14日土曜日

人の理解には謎めいたものがいる

 
 
 ∧∧
(‥ )進化の中立説は
\−  しばしば非常な勘違いを
    されているのである
 
  (‥ )弱肉強食の無い世界へ
      脱出できる
      いわば天国への
      パスポートだと
      思われているんだよな
 
 つまりこの話hilihiliのhilihili: 中立説は平等世界への切符などではないの続きである。
 
 
 確かに人は当初、遺伝子の構造を知らなかった。そのせいなのか、有利、不利、という二者択一で考えてしまう傾向が非常に強かったようである。つまり存在という点は白になるか黒になるかしかない。

 あるいはこうである。1文字はアであるかンであるか、そのいずれかであるはずだと。

 実際には、自然界を見れば分かるように同一種の中で複数の特徴が並立する多型現象はよく見られることであり、有利不利では推し量れない特徴と変異が存在することは明らかであった(言っておくと、ここに最初に注目し検討したのはダーウィンである)。

 しかし、ダーウィン以後、研究者はそういう事実から目をそらしたようなふしがある。

 
 ∧∧
( ‥)でも実際には
    遺伝子は白黒のはっきりした
    点ではなく
    1文字でもなかった
    遺伝子は一次元であり
    冗長な文章であった
    あちこち変わっても
    総体が大きく変わるとは
    限らなかったのである
 
 (‥ )そういうことが分かり始める
     ちょうどその時に中立説が
     木村博士から提案されたから
     大きな議論を呼んだのだよな

 
 
 そう言う視点から眺めれば、実のところ木村博士の中立説は、パラダイムシフトの中核ではなかった、という言い方もできよう。

 
 ∧∧
(‥ )実際には遺伝子の転写翻訳
\−  蛋白質の三次元構造と
    その機能の解明の方が
    思考の大きな転換を
    もたらしたのかもね
 
  (‥ )木村博士はそれ以前に
      それを成し遂げた
      異才の人だと言えるかもな
 
 しかし、どうやら世間の人はそうは考えぬ。彼らはほとんどが中立ならすべてがイコールだと飛躍する。
 
 もちろんこれは間違いだ。冗長な文章で生じうる変異の大部分が中立だと言っても、遺伝子とそれが司る蛋白質の中核部分に起こる変異は実に致命的だ。例えばラス遺伝子。細胞内部における情報伝達を司るこの遺伝子のたった一カ所、たった一文字が変わると、その細胞はガンになる。
 
 もしすべての変異が中立で平等だというのなら、このたった一カ所の変化とその致死的な結果の不平等さとは、一体なんであろうか?
 
 ∧∧
(‥ )すべての変異が平等でないこと
\−  かように明白である
 
  (‥ )だけどそういうことを
      平気で無視して
      中立説ですべての変異が
      中立平等であることが
      明らかになったと
      素っ頓狂なことを
      言い出しよる連中が
      多いことよ
 
 これは無論、ほとんどの変異は中立である、を、すべてが平等だ、と拡大解釈したことで生じた誤謬なんだろう。論理的な人間がよく犯す勘違いである。
 
 あるいは、世界は平等であらねばならない、という世界観がその背景にあるのだろう。

 そうでなければ、ほとんどはどうでもいいよー、という言葉を、これはすべてがイコールであるという神託なのだ! とは言い出すまい。
 
 だがどうもそれだけではない、人間にはなにかもっと奇妙な世界観が理解の背後にある。
 
 例えば人は言う、ここに茶色い変異がある。それがここでは有利である。ゆえに黒い変異が生じても、黒は排除される。かように、自然淘汰とは悪いものを取り除く役割しかしない。つまり優秀なものを見つけるわけではないのである...
 
 ∧∧
( ‥)90点以下の人は
    退席してくださいというのは
    90点以上の人を見つける
    作業ではないという主張ですか
 
  (‥ )何を言っているのか
      分からんだろ?
 
 なにか人間の思考と世界観には、得体の知れない誤謬がひそんでおる。これが何なのか、それは謎めいたものだ。


 
     

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