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2016年5月13日金曜日

中立説は平等世界への切符などではない

 
 
 遺伝子は一次元の構造で、まあ文章に近い。
 
 この文章がゴム印を押すように転写され、さらに転写された文字に対応してアミノ酸が配置される。
 
 しかしこの段階でも一次元。
 
 ∧∧
(‥ )それがくしゃくしゃっと
\−  まるまったりして
    三次元の構造を
    持つようになると
    蛋白質ができます
 
  (‥ )これが機能を果たして
      生物は生きている
 
 遺伝子という一次元の文章が変化すると、それは三次元の構造を持った蛋白質に影響を及ぼし、さらには生物の性質、特徴、性格、行動に至るまで影響が出る。
 
 この一方で、遺伝子は非常に冗長と言えばいいのだろうか? ちょっと内容が変わったぐらいでは何の影響も及ぼさない。つまり生じうるあらゆる変異のほとんどはどうでもいいものなのだ。
 
 ∧∧
( ‥)人間の作った機械でも
    似たところあるけどね
 
  (‥ )電池と電線と電球があれば
      それは懐中電灯に
      なるからな
 
 確かに反射板があった方が光が前に集光されるだろう。
 
 スイッチがあった方が便利だし、持ち手がある方が使いやすいだろう。
 
 しかしなくても一応機能する。
 
 ましてや色や形、素材となるとほとんど千差万別どうでもいい。
 
 かように人間の機械でさえも冗長で、そこで生じる変異の多くはどうでもいいものだ。
 
 とまあ、こういう知識を踏まえていると、

 遺伝子の変異のほとんどは有利でも不利でもない

 という話を聞いても、はあ、それで? としか思わないであろう。
 
 
 ∧∧
(‥ )でもこれを過剰に喧伝する
\−  人たちが世の中には
    いるんだよね
 
  (‥ )でっ言うのだ
      木村資生の中立説で
      ダーウィンの進化論は
      否定されたと
 
 つまりようするに、この手の人の発想はこうである。
 
 優秀な変異が生じることで進化が起こるというけども、実際には、遺伝子の変異のほとんどは中立で、有利でも不利でもないんですよ??

 なっ、なんだってー!!!

 
 ∧∧
( ‥)知ってる人からすれば
    何を言ってるんだお前?
    というやつで
 
  (‥ )この手の連中はさ
      さらに恣意的に
      この話を拡大解釈
      するんだよな
 
 遺伝子の変異のほとんどは中立です。と聞いた瞬間に、そうかすべての変異は等価なのだ! と受け取ってしまう。
 
 そうしてすべての変異は等価で平等なのだから、すべてを普遍に愛しましょう。弱肉強食のダーウィニズムよさようなら〜と、あっちの世界へ旅立ってしまう。
 
 ああ、しかしこれ、どっから突っ込んで良いのか分からないぐらいひどい勘違いで
 
 ∧∧
(‥ )遺伝子って機械と同じで
\−  ここだけは変えちゃいけませんよ
    という部分があるんだよね
 
  (‥ )電池が無い懐中電灯
      タングステンが切れた
      電球
      断線している回路
      もうこれだけで
      後がどれだけ正常でも
      機能を喪失して
      しまうからなあ
 
 実際、そういう機能喪失が顕現することで人は死ぬこともあるし、ガンになることもある。ほんのわずか一カ所で良いのだ。ここだけは壊れちゃいけない、という箇所が一文字変わっただけで致命的なことも起こりうる。
 
 ∧∧
( ‥)結局すべての変異が
    等価であることはありえないし
    そこにこそ
    自然淘汰が効いてくる
    わけである
 
  (‥ )木村博士の中立説を
      平等主義の福音だと
      勘違いした連中は
      どこまでも勝手なことを
      言いよるのよ
 
 さらに言えば、木村博士の業績は偉大で、もし生きていたらノーベル賞ものだったはずだけども、実のところ淘汰に中立な変異は自然淘汰とはまるで違う挙動を示す、ということに歴史上、初めて注目して検討し、その解決を試みたのは、ダーウィンであった。種の起原を読むと、それが良くわかる。
 
 ∧∧
(‥ )結局皆さん
\−  ダーウィンさんの手の上ですか
 
  (‥ )彼が残した未解決問題を
      解決したのが
      木村資生博士や
      ハミルトン博士や
      フィッシャー博士だった
      そう考えるべきだろうな
 
 そしてこうも言える、木村博士の中立説をダーウィニズムから自由になれる平等世界への片道切符だと有頂天に勘違いしている連中は、遺伝子の構造が十分に理解される以前の世界。今から50年あまり前の遺物のままなのであると。
      
 
 
    

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