自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2016年5月17日火曜日
ティムール紀行 怒りのサマルカンド
「チムール帝国紀行」クラヴィホ著 桃源社
モンゴル高原を統一したチンギス・ハーンが即位したのが1206年。
チンギス・ハーンの孫であるフビライがハーンに選出されたのが1260年。
ここでモンゴル帝国はいわゆる分裂状態、ロシア方面を支配するジョチ家、イランを支配するトルイ家(イルハン国)、サマルカンドなどを押さえるチャガタイ家、モンゴル高原と中国を支配するフビライ家が並立する。*実際にはゆるやかな連合体であったという。
その後、それぞれの地域でそれぞれの家の支配が衰える。
例えばフビライ家は1368年、紅巾の乱から頭角を現した朱元璋(明帝国の太祖)の攻撃により、首都大都を放棄する。
一方。内乱状態に陥ったチャガタイ家の所領の中から現れたのがティムールであった。1370年に支配権を握り、そして征服を開始する。
∧∧
(‥ )キリスト暦1403年
\− そのティムールのもとへ
派遣された
スペイン王家の使節
クラヴィホが書いた紀行文
それが「チムール帝国紀行」
(‥ )仕事の合間に
ぱらぱら読んでるけども
ずいぶん詳しい内容だ
この時代、紀元前より続くローマ帝国は、もはや風前の灯であった。残ったのは首都コンスタンチノープル(現イスタンブール)と、その周辺のみ。押し寄せるオスマン家率いるトルコ帝国に抗いようが無い状況である。しかも当時のオスマン家の当主はスルタン・バヤジット。雷電の異名を持つ君主。
ところが、このスルタン・バヤジット、1402年、ティムールに破れてしまう。こうしてローマ帝国(ビザンチン帝国)は1453年の滅亡まで51年、なお命脈を長らえることとなった。
キリスト教国を圧倒するオスマントルコを背後から撃破したティムールに、キリスト教徒が注目するのは当然であった。
∧∧
(‥ )なんかあれね
\− クラヴィホさんの
紀行によると
バヤジットさんが決戦場へ
向かったら
ティムールさん、ぐるーっと
迂回して避けちゃったみたいね
(‥ )ティムールは臆病なのか?
そう思って
バヤジットが追撃を
開始したらぐるぐる
引き回されて
いざ決戦となったら
トルコ側は疲れ果てて
いたと書いてあるな
当時、オスマントルコは火縄銃を用いた奴隷軍人による常備軍イエニチェリ軍団を持っていたはずだけども
∧∧
( ‥)ティムールさんだって
銃は持ってるけどね
( ‥)あれかなあ歩兵主体と
−/ 騎兵主体で
機動力が違ってたのかな
よく分からない
スペイン使節を案内するティムール配下の人々は、主君に拝謁する使節に丁寧である一方、支配下の人々に対しては暴虐である。夜だろうがなんだろうが、出会った人々に必要なものを無慈悲に要求し、歓待せしめ、気に入らぬことがあれば容赦なく殴り、あるいは杖で打つ。
∧∧
(‥ )まさに暴虐非道
\−
(‥ )権力者って本来は
そういうものなのかなあ
それとも、そうでもしないと、人々は従わないってことなのだろうか?
ティムール帝国の首都サマルカンドに到着した使節たちは、ティムールの孫の結婚式とその祭典を見ることになる。遊牧戦士たちを大集合させサマルカンドの平原に整然と張られる2万のテント。そしてそこにサマルカンド市民も参集させられる。あらゆる商人がそこで商いを行い、あらゆる工人、職人がその技を振るい、人々に見せることを要求される。
∧∧
( ‥)見てみたい大祭典だね
(‥ )でもそこで
公開処刑も行われる
のだよな
理由。サマルカンド市長在任中、ティムール留守の間に不正をしたから。
理由。ティムールからあずかったはずの3000頭の馬が、足りない。
これらいずれもティムールに重く用いられた貴族たちであるが、孫の結婚式と遊牧戦士、そして貴族、商人、職人、平民が集まる中、容赦なく縛り首にされるのである。
∧∧
( ‥)まさに暴虐
(‥ )でもこれってさ
この人たちが
いい加減なんじゃね?
3000頭に足りない! と怒られた大貴族が述べたのは、6000頭にして返します! という言葉であったという。
∧∧
(‥ )...そういう問題じゃ
\− ないよね
(‥ )少なくとも現代人から
見れば
お前は何をいってるんだ?
という話だよな
確かに王者ティムールの怒りは当然かもしれぬ。
例えば、
どういうことよ、お前に3000頭預けたのに数が足りないじゃん?
と相手の怠慢を詰問した時に、
申し訳ございません、6000頭にして返します
と言われたら、うん、お前、死刑、ぐらいは言うかもしれん
*もちろん、死刑だ、と言われた後に6000頭にして返しますからお慈悲を! といった可能性もある。その場合、以上はなりたたない。だがしかし、さりとて怒りが収まる理由にもならぬであろう。むしろ火に油を注ぐ可能性もありうる。
いずれにせよ、ちょっとこの世界の人たち、ずぼらじゃねえのか? というふしはあちこちにある。例えばティムールがスペインの使節を宴会にまねく。それは使節のためだけの宴会であり、それは歓待であり、彼の自慢の建築物を使節に見せたいからなのだが
∧∧
( ‥)通訳がなかなかこなくて
使節が滞在先で
通訳を待っている間に
ティムールさん
お食事を終えちゃうんだよね
(‥ )当然、お怒りになる
わけですよ
通訳がこないからといって宴会に遅刻するとは何事か?(ただし使節に対しては怒りを向けず、見逃してくれた) それに侍従たち! お前たちもただ通訳を待つだけで、通訳を探しにいかないってどういうことよ? なんでお前ら便宜はからないの?
だいたいこういう内容。
∧∧
(‥ )ティムールさんのお怒り
\− ごもっともでございます
(‥ )まあティムールの怒りが
恐ろしくて部下たちは
融通の利くことが
できなくなってるという
可能性も当然あるけども
なんていうかね
ちょっと皆さん駄目だよね
ティムールの主張の方が
かなりまとも
∧∧
(‥ )常識や融通さが今と違う
\− 仕事の仕方も違う
それを考えると
ティムールさんの暴虐を
どう論ずるべきか
というのは
難しいところですなあ
(‥ )ティムールは
話を聞いていると
約束を平気で反古にしたり
そうかと思うと
約束を守ったり
なんとも言い様がない
でも一見混乱して
見えていても
当人には当人の理由が
あるだろうし
それをあずかりしらぬ
こちらとしては
容易には心中推し量れない
有名な首の塔の話も出て来た。
イランを支配したトルイ家(フレグ家:イルハン国)が崩壊した後、一時、大きな勢力を持った遊牧民、白羊族。彼らはティムールに撃破され連行され、居住地を東へ移された。故地に戻ろうと反乱を起こすも、ティムールによって抹殺されてしまう。彼らの首と粘土を重ねて作った塔がこれである。使節が見た時、それは石を投げれば届くほどの高さに積まれた、頭蓋骨と粘土になっていた。
∧∧
( ‥)まさに暴虐の極み
(‥ )でもさ
最初は領地を移し替えた
だけで命はとって
いないわけだ
でもその後、反乱で
結果的に大虐殺だ
何がいけなかったの
だろうねえ?
白羊(アク・コユンル:後に白羊朝を作る)の人々が単に帰りたかっただけで起こした愚かな反乱であったのか、あるいは移し替えられた領地が生活しにくい土地であったから必然の反乱であったのか
移し替えて良しとしたのはティムールが寛容であったことを示すのか、あるいは無思慮であったことを示すのか、あるいは単に、それは個人の限界であったのか
これだけでは判断のしようがない。
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