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2016年5月18日水曜日

啓蒙入力万事解決! はあくまで娯楽

 
 
 異世界に転生する。こういう小説は昔からあった。ロビンソンクルーソーが遭難して無人島という異世界へいき、あるいは植民地時代華やかなりし頃、小説の中で白人たちは遅れた未開の国へいって大冒険をし、あるいは無知蒙昧な未開人相手に文明と道徳とキリスト教の素晴らしさを啓蒙したのであった。
 
 日本の漫画、冒険ダン吉もこれに連なる話であろうし、物語の舞台は技術の発展と共に宇宙にまで広がった。

 それはSFになり、技術の限界が見えた後はファンタジーに転向し、異世界へいく話になった。
 
 ∧∧
(‥ )でも基本は変わらない
\−  無知蒙昧な未開人に
    文明人のすばらしさを
    啓蒙するのである
 
  (‥ )でだ
      例えばこう考えよう
 
 異世界にいったら自分は勇者になっていた。いかなる軍人、武人にも及ばぬ無敵の力の持ち主だ。
 
 そしてその異世界はティムール帝国だった。
 
 さて? 主人公に何ができる? 何をする?
 
 つまりこれはhilihiliのhilihili: ティムール紀行 怒りのサマルカンドの続き
 
 
 ∧∧
( ‥)どうします?
    首の塔を作り
    人間を壁に塗りこめる
    暴君を倒して成り代わり
    善政でも敷きますか?
 
  (‥ )成り代わる言われてもな
      預けられた
      3000頭の馬をきちんと
      管理できずに
      その咎を問われたら
      6000頭にして返します
      とか言い出す人間が
      大貴族やってる世界だぞ?
 
 こんないい加減な人たちがいる世界で、いや、むしろこれが常識かもしれない世界で、善政どころか、我々の常識の政治が敷けるだろうか?
 
 ∧∧
(‥ )現在の統治なんかしいたら
\−  なめられてあっという間に
    反逆の嵐ですかね?
 
  (‥ )まあ反乱者を次々に
      殺せばいいんだろうけどね
 
 ∧∧
( ‥)そういうの現在の統治って
    言わない
 
  (‥ )要するに無理って
      ことですね
      だって社会常識が
      そうじゃないんだから
 
 現在の先進国の統治は、次々に軍事集団が反乱を起こさない、そういうことをしたら面子がつぶれて、むしろ袋だたきにされる良い口実になる、だから反乱しない。それゆえに、反乱者を殺す必要がない、という約束事があるから成り立っているだけの話。
 
 世界が変わり、社会の常識が変われば動態も、取るべき選択肢も変わる。

 例えば転生者がティムールを倒してしまう。

 遊牧民はしばしば大会議と根回しで君主を決めることがあるみたいだけども、そうなれば最強である主人公が選ばれるかもしれない。
 
 ∧∧
(‥ )一見すると民主的な選出で
\−  めでたしめでたしだけど
    それはあくまでも
    力あってこその選出
 
  (‥ )当然隙を見せれば
      反乱が起こる
 
 反乱が起きた時、相手を殺さなかったらどうなるであろうか? 殺さなかったばっかりに相手に殺されるということは歴史上、よくある話。
 
 暴虐と言われるティムールとて、記述を見れば、例えばアク・コユンルたちを倒した後でも彼らの命は奪わなかったという。

 しかし新たにアク・コユンルたちが反乱すると皆殺しにし、アク・コユンルを見つけたら誰でも殺せと命じた。

 兵士たちはそれに従い、こちらで10人、あちらで20人、あちこちで二人、三人と殺され死んでいるを見つけられる状態になったという。
 
 結果的にアク・コユンル6万人を殺したと言われる。
 
 かようなことが現実の歴史であった。

 なれば、ティムール帝国への転生者も同じ状況に追い込まれるだろう。
 
 ∧∧
(‥ )ティムール帝国に転生した
\−  主人公も同じことを
    やることになるであろう
 
  (‥ )可能性は大いにあるな
      実際、ティムールは
      一度は見逃しているのに
      反乱されて虐殺に
      およんだわけだよな
      転生した主人公が
      二度見逃しても
      やはり反乱するし
      全滅させるまで
      続くことになる

 もちろん、反乱した側にも言い分があろう。

 だがもちろん、抹殺した側にも言い分がある。
 
 つまるところ問題は道義の是非ではない。

 そういう力学で人間たちが動く世界では、その常識と力学に従わざるをえない。

 その世界にいけば誰でも嫌でもそうならざるをえない。ここに問題の根深さがある。
 
 ∧∧
( ‥)ティムール帝国に転生した
    主人公も人々がそういう力学に
    従っている以上
    自分もそれに従わなければ
    ならないだろう
 
  (‥ )こういう大規模な
     殺す殺されるという話に
     限ったことではないのだ
     3000頭の馬を預けたら
     頭数が足りない
     なぜちゃんと管理しない?
     そう問うたら
     6000頭にして返します
     そういう返事が返ってくる
     そんな世界で
     善政以前にそもそも
     まともに統治することが
     できるのか?
 
 ティムールは不手際を犯し、さらにこう弁明して慈悲を乞うた貴族を孫の結婚式で公開処刑にした。
 
 つまるところ、ティムールとて、それ以上のことはできなかったということではないだろうか?
 
 実際、これ以上のことをどうすれば行えるであろうか?
 
 以上のようないい加減な弁明がこの世界の常識やありがちな話であるのなら、これを偏向させるには、転生者は、ティムール以上の暴君にならねばならないのではなかろうか?
 
 転生で得た無類の力とそれを用いた暴虐で人々を支配し、規律を一から教え、何が問題であるのかを提示し、しかも不老不死でこの計画を何世代にも渡って行使する。

 暴君として人々を幾世代も統治し、不変の方針で社会のあり方それ自体をあるべき方向へと、少しずつ調整する。

 
 ∧∧
(‥ )もうほとんど砂の惑星の
\−  神皇帝ですなあ
 
  (‥ )砂漠の怪物砂虫と
      共生融合することで
      無類の力を得て
      圧倒的な暴力を振るい
      なおかつ事実上の
      不老不死
      神皇帝は
      3500年の暴政を
      敷いて人類の未来を
      本来の進路から
      偏向させるという話だが
 
 もうほとんどそういう存在にならないとティムール以上のことなどできないと見るべきではないのか?
 
 ∧∧
(‥ )でも異世界転生もの...
\−  これは
    19世紀あたりの文学から
    現在のゲームに至るまで
    非常に広い意味で使って
    いるけども
    そのほとんどはそういう
    現実の統治や現地の事情
    人々の価値観や考え方を
    まったく無視して
    啓蒙すれば万事解決と
    安易にも
    設定しているのである
 
  (‥ )まるで人間は
      啓蒙を入力すれば
      それで万事問題なく動く
      機械のように
      考えられているのだな
 
 いやこれ、創作の世界に限らない。

 だってイラク戦争を決断し、フセイン政権を倒し民主制を樹立させればイラクが親米のすばらしい同盟国になる! そう考えて攻め込んだ為政者たちもこのように考えていたであろうから。
 
 ∧∧
( ‥)アメリカの為政者は
    異世界転生小説を読みすぎた
    中二病患者でしたぞと
 
  (‥ )言い換えればそういう
      安易な世界観を人類が
      普遍的に抱いているから
      古今東西の物語は
      啓蒙入力万事解決!
      という形式になっていた
      ということだろうなあ
      プラトンだって
      阿呆みたいに荒唐無稽な
      理想社会の青写真を
      あちこちの為政者に
      売り込んだわけだからね

  
 そして当然、そんな世界観、うまくいくわけでないこと、イラク戦争の結果を見れば明かである。
 
 あの時、アメリカはイラクを民主化すれば(戦後日本がしたように)、我々はイラク製の自動車に乗っているだろう、と述べた。
 
 実際にはどうだ? ISISが誕生してアメリカは尻尾まいて逃げ帰り、問題はシリアと難民とEUに押し付けて、自分たちはトランプ議員に熱中して引きこもろうという案配ではないか。
 
 つまるところ、啓蒙入力万事解決! など、小説の中でやるべきことで、娯楽以上の意味をもたせてはいけない。
 

  

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