自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2017年8月8日火曜日
エアバッグの夏 あの人はどこにいったのでしょうね?
先日、散歩の途中で事故を見た話
=>hilihiliのhilihili: 事故とネナシカズラと赤き花の8月6日
追突して、おそらくはじかれ、電柱に激突した乗用車。助手席の男性が衝撃でぼんやりしながら降り、後ろの座席から降りた女の子は奥でぐったりしたもう一人の女の子に声をかけ、運転席ではエアバッグがふくらみ、その前でハンドルを握ったまま頭を振る男性。
錆のようなプラスチックが焼けたような匂いが立ちこめる夏の暑い午前。
∧∧
(‥ )...昔見た事故の時には
\‐ エアバッグはなかったですな
(‥ )そういえばそうだったな
多分、90年代ではなかったか? 何をして帰ってきたかは忘れたが、もうすっかり夜である。9時であったか10時であったか。
駅から降りて家まで歩いていくと、人々がふらふら歩いているのを見た。つっかけやサンダル。それに寝間着だ。
何が起こったのか? そう思って曲がり角の向こうを見ると、ワゴン車が路肩に停車していた。その辺りを見ている人が1人、2人といて、だんだんと人がやってくる。
こんなワゴン車の何がそんなに興味深いのやら。
だが近づいて分かった。それは路肩に停車していたのではなかった。道路脇の電柱に、何をどうやったものか、まっすぐ正面衝突していたのである。
∧∧
( ‥)居眠り運転ですかね?
(‥ )そうとでも考えないと
説明つかないな
中には誰もいなかった。だが事故であることはボンネットに電柱がめり込んでいることから明らかだし、そしてなによりフロントガラスについた跡。
運転席の前のガラスがびしっと蜘蛛の巣状にひび割れて、そしてヘルメットであるかのように丸く膨らんでいた。当然と言えば当然なんだが、ちょうど人間の頭のサイズである。
それほどの激突だったのだが、血はついていなかった。そして中に人はおらず、しん、と静まり返った夜。
内部を覗き込んでいると、ネグリジェを着た女性が話しかけてきた。
雷が落ちたみたいなすごい音がしたんですけど、どうですか?
中の人はシートベルトをしてなかったみたいですよ。ほら、思いっきり頭をぶつけてる。
ふくらんだフロントガラスを指で指すと、その女性は、後から来る旦那か彼氏らしい男性に、見てみて、シートベルトしめていなかったんだって、と手招きで話し始めた。
ああ、あそこの安アパート、いや他人のことは言えないが、こういう人たちが住んでたんだ。うちも怪しげだが。そう思いながら周囲を見ても、何事かと集まる人たちだけで、事故を起こした本人も誰も何もいない静かな夜。
∧∧
(‥ )あの時、エアバッグは
\‐ なかったのですな
(‥ )エアバッグは90年代から
普及し始めるけど
本格的には後半から
みたいだからね
誰だか知らんが
思いっきり
フロントガラスに
突っ込んじまったんだな
それが今では、事故直後に頭を振って正気を取り戻そうとする余裕があるのだから驚きだ。エアバッグとはたいした発明である。
∧∧
( ‥)音だって大したこと
なかったよね
先日の事故はがんっ どんっ
がしゃん! だからね
雷が落ちたみたいな
そんな音ではないよね
(‥ )夜は静かだからって
こともあるだろうけど
車体をゆがみやすくして
衝撃を吸収しているって
感じかな?
実際、あの音を聞いた時、音と宙を舞う部品から事故だとは分かったが、意外と小さいな? これがトン重量の物体がキロメートル速度の運動エネルギーで出す音かい? と疑問に思ったものである。
∧∧
(‥ )運動エネルギーが
\‐ 変形に消費されて
音や衝撃になりにくいのだと
(‥ )そう納得することにした
先日の事故はYの字の
交差点における
流れの切り替えで生じた事故
速度があまり出ていない
状況での事故だからかも
しないけどもな
わずか20年程度で大変な進歩ではないか。後、20年生きたら何にお目にかかれるか、そりゃあ楽しみってものだ。
それにしても
∧∧
( ‥)20年前のあの事故車の人は
どこへいっちゃったの?
(‥ )さあ?
救急車に搬送されたわけではどうもなさそうだ。だって自分が来た時、周囲の人が何事かと集まってきているところだったから。
さりとて命からがらとにかく脱出したわけでもなさそうだった。鍵がかかっていたかは知らないが、ドアは閉められたままだったからである。なにかこう、余裕があったことがうかがえる。
∧∧
( ‥)衝撃で頭がぱーになって
ふらふら歩き出して
でも寝ぼけた状態で
ドアは閉めました
ですかね?
(‥ )そんな感じじゃねえか?
ひょっとしたら、飲酒運転がばれるのが怖いのでとりあえず逃げ出したってこともありうるが、謎めいた夏の夜の出来事であった。
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