チェチェンの支配者カディロフ首長の親衛隊カディロフ部隊。残忍さや拷問、人身売買などで悪名高い部隊である一方、働いてますよアピールでやたら動画投稿することで有名。
4月5日に投稿されたのは住宅街から機関銃を撃ちまくった後、踊って決めポーズを取るおちゃめな姿。
しかし、楽しそうなご本人たちには悪いが、注目すべきは背景であった、背景こそが場所の同定につながる情報であり、場所の同定は前線の位置を教えてくれる。
幸いにもこの動画、撮影者がぐるっと180度視界を動かしてくれているので、画面をつなぎ合わせることができた。
できたのだが...
∧∧
(‥ )...どこだよここ
\−
(‥ )んー...東岸だってことは
わかるけど
画面をみると壁が黄色で二階建て、三角屋根をした建物が見えている。これはどうも集合住宅で、いわば長屋のようなものらしい。そしてやや郊外で見られる形式のものであった。例えば町の中央を流れるカルミウス川。その東岸にこういう長屋がある。ついでにいうと最近のカディロフ部隊の投稿は東岸地区だから、以上も東岸地区で撮影されたと考えるのが妥当。
∧∧
(‥ )これらの集合住宅も
\− 市街戦における
防御壁として
使われることを
想定してるよね
(‥ )大通り沿いに
並んで壁になったり
あるいは
長方形に並べて
陣地として使える
街区や区画を作ったりな
明らかそういう作りだな
旧ソ連邦の都市ではよく見かける構造だ。実際、マリウポリにも建築物の長方形配置はいくつもある。ただし、そのほとんどはもっと高層の集合住宅だ。
実のところ、動画背景のように二階建て長屋形式で、なおかつ中央が広場になっている場所は多くない。
それにも関わらず、この場所を見つけるのは難しかった。ひとつは画像が不明瞭であること。そしてもうひとつは画像の解釈を色々と勘違いしていたこと。
そしてなによりもうひとつは...
∧∧
(‥ )ここ....ですかね?
\− かなり意外なことに
マリウポリの東岸市街
住宅密集地のほぼ中央だ
(‥ )いやはやこれは
驚いたな
なにが驚いたって、ここはロシア軍の地図ではとっくに制圧された場所であったから。しかもカディロフ部隊が発砲している方角は東(画面右)であって、つまりはロシア軍制圧地域の奥側である。
同定に間違いがあるんじゃないか? と思って何度も確かめたけども、多分、本当にここで良い。
この画面の地図は実際の方角を90度倒して、右側を北にしている。道路の左突き当たりの建物が、その部分で張り出して三角屋根を作ること。画面左奥の建物が、これもどうやら張り出しを持っているらしいこと。画面右奥の建物が、どうも凸型の輪郭をしているように見えること。画面右、撮影者背後の建物に小さな長方形の軒先があること。さらに背後の建物の左右が舗装されておらず、土になっていること。見れば見るほど、ここで良いらしいことがわかる。
∧∧
(‥ )いやしかし驚いた
\− ウ軍は制圧地域の
奥までやってきて
攻撃しているし
カディロフ部隊は
出張ってきたウ軍の
背後に回る感じで
反撃しているってことに
なるのだね
(‥ )カディロフ部隊は
やらせっぽい動画も
投稿するから
信用しすぎるのは
危険なんだがな
東岸市街地の
露軍の攻撃方向って
実際かなり
ばらばらなのよね
これはつまり、ウ軍は籠城した場所からあちこち出張って攻撃している、ということ。
∧∧
(‥ )市街戦って想像とは
\− ずいぶん違うんだね
細かな陣取り合戦かと
思いきや
あっち出かけたり
こっちで反撃したり
迎撃したり
牽制したりするのだね
(‥ )なんか塹壕戦みたいな
ものを想像していたけど
もっと動きが
あるものなんだな
まあ考えてみれば当然ではあった。もし制圧した一部屋一部屋に兵隊を配置できるなら、塹壕全てに兵隊を置いて、戦線が膠着したWW1と同じことになるであろう。
しかし、現実には攻守共に人員に限りがある。そうであれば、双方ともに陣地を作ってそこから出動し、あちらを奪い、あるいは奪われ、こっちを攻撃して牽制し、こちらに出かけて嫌がらせをして帰っていく。そういうことが延々と続くことになるだろう。
∧∧
(‥ )ウクライナ戦争全体だって
\− あっちが出たり
こっちが引っ込んだり
こちらが包囲されて
あちらが退いたりと
色々、細々、
動いているからね
(‥ )市街戦とは
こういうものかー
迎撃するウクライナ軍も苦しい。しかしロシア軍もその損失は、どうやら甚大であるらしい。3月末までは40代ぐらいのプロの兵隊が動画に出ていたが、4月に入って負傷兵やぎこちない新兵たちが登場するようになった。増援と言えば聞こえは良いが、使い捨ての駒のように使われることは必至だ。
何千、何万という市民を無残に殺して侵略しながら、しかしロシア兵自身も要塞都市の中で容赦無くすりつぶされて死んでいく。これが市街戦。