2016年8月11日木曜日
希望的観測は眼を曇らせる
17年前、その老人はインドネシアでステゴサウルスを見た、と言った。
つまりこの話の続きである=>hilihiliのhilihili: 17年ネットをさまよう老人ステゴサウルス
∧∧
(‥ )あなた自身はその老人を
\− 見ていなかったけど
老人と話をした知人は
しごく興奮していた
(‥ )あの人はUMA好きだった
からなあ
しかし、ネッシーしかり、雪男しかり、サスカッチしかり、UMAとはたわいのない代物なのである。首長竜が生きているのなら、化石記録が残るだろうし、そもそも死体が漂着するはずだ。雪男は、類人猿が本来、熱帯雨林の動物であることを考えると設定が無茶すぎる。北米の雪男であるサスカッチ、あるいはビッグフットに至ってはただの笑い話にしかならない。
∧∧
(‥ )ベーリング海峡を越えた
\− 類人猿は人類だけだからね
しかも最終氷期が終わる
1万5000年前程度の話
(‥ )UMAなんてどれもこれも
生物学や地学や動物地理学
系統学を知ってる人間から
見れば無知の妄想よ
とはいえ、夢があること自体は事実だろう。アイドルの現実を知らぬ人間ならアイドルに夢中になれるように、知らないとは美しいことであり、その美しさに人は魅了されるのだ。
∧∧
( ‥)実際には枕営業やったり
プロデューサーの愛人
だったり?
(‥ )だったりするけど
そういうことを
ことさらに
言い立てるのは
野暮なのよ
野暮なことはしない。アイドルはアイドルであれば良い。
だが、仕事に関わることとなると、それを言うのは野暮でしょう、というわけにはいかなくなる。
∧∧
(‥ )あなたの知り合いもあなたも
\− サイエンスライターとか
ですからなあ
(‥ )しかもあの人
UMAが好きとかだけ
じゃなくてだな
UMAを信じてたからな
いや、知識はあるんだ。
だからネッシーや雪男やサスカッチがありえないということは彼もよく分かっていた。少なくとも、そんなことはありえない、という程度の知識は持っていた。
考えてみれば残酷な話ではある。
何も知らなければ海岸に流れ着いたUMAの死体! という見出しと写真に驚き、興味とロマンを持つだろう。
だが知っているとそうはいかない
∧∧
(‥ )この死体は歯クジラだね
\− 大きいからマッコウクジラかな
こっちはイルカでしょうかね
これは歯がなくて
特徴的な頭骨の形から
ヒゲクジラだね
こっちは首長竜っぽいけど
顎と鰓が落ちたサメですなあ
そもそも首長竜はこんな
骨格してないし
この脊椎は軟骨魚類だよね
(‥ )とっ、こういう具合に
分かっちゃうんだよな
知識を持って推論できる、とはこういうことである。そして同様に、ステゴサウルスがインドネシアに生き残っているなんてありえない、ということは彼にも理解できたであろう。
∧∧
( ‥)ステゴサウルスを見たという
おじいちゃんは
なにか勘違いしているか
ぼけかかっていたのかも
しれないし
ほら吹きなのかも
しれない
(‥ )だがそれでも
彼はそのおじいちゃんの
与太話に夢中になった
あれはどういう神経
だったのだろうな?
理由は色々考えられる。もしかしたら、彼はもともとまず第一にUMAが好きで、それで動物に興味を持って本を読み、読んでいくうちに動物の知識を身につけてしまったのかもしれない。
∧∧
(‥ )それは悲劇だよね
\− 知らなければUMAだ! と
夢中になれたはずなのに
知った後はどれも知っている
動物の死体だと分かって
しまう
(‥ )それでもなお
じいさんの与太話に
飛びついてしまうのだ
それほどまでに
夢とは渇望されるもの
なのだな
だがこういう姿勢は物事を検証する時、あまりほめられたことではない。
希望的観測は眼を曇らせる。こういう言葉があるように、渇望は現実を強くゆがめてしまう。こんな立ち位置で科学の記事を書かれたら困ったものではないか。
しかも、どうも自分が見るに、彼はこの渇望の強さと現実をゆがめる感が年々強まっていったようだった。
∧∧
( ‥)でっ、とうとう喧嘩別れしたと
( ‥)やはりな
夢なんていらねえんだよ
すなわち、希望的観測が眼を曇らせるのならば、すべての希望は抹殺しなければならぬ。
それが観測者というものだ。
すべての人の希望に絶望を。
夢などというものはこの世にいらん。皆の希望、ことごとく滅すべし。