2014年11月18日火曜日
今はね、トサカが流行りなんすよ
1990年代、自分を含めて幾人かの人が集まった時、「寄生獣」の話題が出た。
∧∧
(‥ )それは前に書いた通り
\‐ なんだけども
(‥ )「あれ良いですよね」
そう一人が言った時に
別の一人がこう返した
あのアイデアは、SF「20億の針」だ。あれが画期的でオリジナルだと思っては困る
それは前に書いた通りの話だ=>hilihiliのhilihili: 劇場で踊るクジャク
だがしかし
実のところ、あの時、あの場には「20億の針」を読んだ人間が他にもいたのである。
∧∧
( ‥)あなたもその一人だし
(‥ )そもそもな
「寄生獣」は良いですよね
そう言い出した人も
「20億の針」は
読んでいるんだよね
つまり、最低でもその場には「20億の針」を読んだ人間が3人はいたわけだ。
そのうちの2人は、「寄生獣」は「寄生獣」であって、これは良いぞ、そう思ってそのことを口にしなかった。
∧∧
(‥ )だけど3人のうちの1人は
\‐ あれは「20億の針」の
パクリだ
みたいなことを言った
(‥ )あの余計な一言でな
話の腰がぽきって
折れてなあ
あの時、思ったのは、
あなたは「20億の針」を知っているのはこの場で自分しかいないと思っているようだが、他に最低でも2人はいるんですよ。いるんだけども「寄生獣」は「寄生獣」である。これは良いと思い、その話をしているので、そんなどうでも良い指摘はあえてしていないんですよ。だのにあなた、なんでそういう余計なこと言うの?
ということであった
知っているのはあなただけではないですよ
そもそも「寄生獣」が良いと言い出した人もそんなことは知った上で言っているのですよ
こういうことをいちいち指摘する気にもならない。
言い出しっぺもそういうことは言わなかった。だが、言い出しっぺの彼がこっちをちらっと見た時の様子から、お互いが同じことを考えていることは、なんとなく分かった。
あの時、あの瞬間の空気の悪さと言ったら、なんとも言い様がないのである。もう20年も前の話なんだが、今でも覚えているのはそのせいだろう。
∧∧
(‥ )SFオタクが
\‐ そういうことをするから
SFって衰退したのですかね?
(‥ )いや関係ないだろ
オタ芸だかなんだか
一般の客がどん引きする
パフォーマンスをする
熱心なファンが生まれた
そうしたらアイドルが
即座に凋落しました
なんてことは
ないだろうからな
こういう愚痴を見た事がある。
SFオタクとかSFファンとかさ
このアイデアはこのSFのパクリだ。だのになぜアニメオタクはこのようなものを画期的と評価するのか??
あの人たちはそういうことをやたらと言いたがるよね。
ここで槍玉にあげられているSFファンの行動は、いわば自分の知識をひけらかす行為であるし、そのような知識自慢をする場を、アニメという別ジャンルに奪われてしまった事に対する憤りでもあるだろう。
∧∧
( ‥)自分の知識をひけらかす
それはクジャクが尾羽を
広げるようなもの
それは生物としては
非常に当たり前の行為
(‥ )だがクジャクは
パフォーマンスをする場を
新種に奪われてしまった
そういうわけだよ
まあ、怒るのは当然だよな
怒るのは当然だ。だから、新種がトサカを広げて美を競い合っている場所に乱入して、
なんだそんなもの! お前らのそのトサカの柄と有り様は俺の尾羽のパクリじゃないか!!
そういって尾羽を広げて、皆に、ほれほれ、どーだ、どーだ、と見せつけるのは当たり前のことであろう。
∧∧
(‥ )でもそれはトサカじゃないから
\‐ 結局のところ
全然まったくうけないんだよね
(‥ )そのトサカはパクリだ!
そういって尾羽を
広げられてもな
今の流行りは
トサカなんだよ
馬鹿だろお前で
話は終わっちゃうんだよね
美というものは性能ではない。それは必然の存在ではないので、どうしても流行りという挙動を示す。いきなり勃興して、そうしていきなり衰退するものだ。
∧∧
( ‥)それを考慮すると
SFが衰退した理由を
考える必要なんてない
そういうことでもあるね
(‥ )流行りに
積極的な理由なんて
存在せんからな
理由なんて頻度と確率で
説明するものだろ
一世を風靡したアーティスト、小室哲哉さん。ブームと席巻と凋落があまりに極端だったので非常に印象的だったけども、ある人が曰く、音楽のすべてを彼が席巻してしまうと、同じものに遭遇する頻度が非常に高まるため、必然的に、しかも急激に飽きられてしまうと。
∧∧
( ‥)頻度、刺激、慣れ
もうそれだけで説明が可能
(‥ )マニアがどうした
オタクがどうの
そんな精神論は
説明には不必要だろうな
オタクは無駄なことに命をかけているのだから、その魂は高潔である、という精神論もまた不要だ。生物である以上、そんなことはありえない。オタクは人体から生み出される即物的な欲望、人間社会における地位を確保したいという打算で行動しているにすぎぬ。
知識の誇示、とはそういうことに他ならぬ。
彼ら自身がしばしばそう主張するではないか
” まったく無駄で浮世離れしている行為に全力を尽くす、それこそが知的行為である”と
∧∧
( ‥)でもそれこそが
人類が巨大な脳を誇示して
他人に自分を
見せびらかすという行為
つまり欲望の発露
社会的地位の確保
そのものに他ならない
( ‥)オタクの純粋さを
‐□ 歌い上げる人はだな
進化を理解していないのだ
∧∧
(‥ )そして知識の誇示とは
\‐ 流行りに左右されてしまう
そういうはかなさを
そなえている
(‥ )流行はうたかた
そして
流行に乗り遅れるのは
悲惨だってことよな
以下、備考
*SF小説「20億の針」は細胞よりも小さな構造を基本単位として、それによって体を構成している宇宙人が地球にやってくるところから始まる。この種族は液体状であり、細胞から体を作っている別の生物の体内に、浸透するように入り込んで寄生し、それを操る事で生活している。地球にやってきた宇宙人の目的は犯罪者の追跡だ。宿主を傷つけること、それは彼らにとって重罪であり、その罪を犯した逃亡者を星々を越えて追跡してきたのだ。地球にやってきた追跡者は少年の体内に潜り込み、少年に接触をはかる。網膜に文字を投影し、意思疎通をおこない、そうして一緒に犯罪者の捜索を開始する。相手はおそらく地球人の誰かの体内に潜り込んでいる。それは誰か? 「20億の針」とはこういう話である。
**「20億の針」の作者ハル・クレメントは化学や物理学から異世界の設定を考えるのが非常に得意であり、例えば地球の数百倍という高い重力を持ちながらも自転速度が異常に速いために赤道付近の引力が地球の3倍程度という惑星、メスクリンを設定したのもこの人だ。(メスクリンの話はこのblogでも何度か話題にしてもいる=>hilihiliのhilihili: たぶん、SFすら読んでいない)。ただ、登場する異形の宇宙人たちの心は、どれも普通に人間なので、その点は物足りないとも言えるし、お話の都合なのだとも言える。ハル・クレメントの小説の宇宙人でかなり変な行動を示すのは、例えば個体という概念ではなくユニットという概念で自分をとらえている「窒素固定世界」のオブザーバーたちだろうか。
***クジャクの尾羽は実際には尾羽ではないのだけども、一般的にはこの名称を使用。