2016年10月17日月曜日
愚痴とはエントロピー増大に局所的に逆らえない
隣のアパートに住んでいたばあさん。
∧∧
( ‥)ああ文盲で時々
これ何の通知?? と
あなたに電気料金とかの
通知書を持ってきた人ね
一人暮らしで寂しいせいか
あなたや近所の色々な人に
話しかけてたよねえ
( ‥)あのばあさんさ
−/ 話がつまらないんだよ
例えば、出会い頭、
今ね、電話が鳴っていたから、姉の電話かと思ってあわてて部屋に戻ろうとしたら切れてしまったの
とまあ、開口一番、いきなりこれである。
∧∧
( ‥)今、自分の身に起こったことを
ただ報告しているだけやがな
(‥ )つまらないというよりは
聞く側のことを
考えていないんだ
言葉は意思の疎通に使われる。それはいわば通貨になりうる。そして通貨とは使おうとする側、使われる側、そのどちらにとっても価値があると見なされた時、流通するのだ。
∧∧
(‥ )鳴っている電話に
\− 出ようとしたら切れてしまった
これは流通する通貨としては
不合格でしょうな
(‥ )自分のことでしかなく
聞き手にとっては
何の意味もないからな
あのばあさん、どうも生まれつき知恵が人並みではなかったように思われる。
だがしかし。これ、この事自体は老人だれしもに当てはまることでもあった。
∧∧
(‥ )先日、会った老人の方も
\− 自分のことをまくしたてる
ような会話をするのである
(‥ )そういうのは会話って
呼ばないんだけどね
ともあれ
言葉は通貨であるから
普遍性がないと流通しない
つまり
流通しうる言葉でないと
意味など無い
とか
会話はキャッチボールで
それゆえに相手も返せる
内容でないと意味がない
とか
そういうこと考えないのよ
そしてこれが老いるということであろうか?
脳の力が衰え、言葉や会話を探る力が衰えた結果なのか、あるいは延々と同じ思考を繰り返したので同じことを反復するだけになっているのか、あるいは
∧∧
( ‥)あるいは単にネタが
なくなったんじゃね?
( ‥)...それは深刻だよね
−/ 他人事でもない
∧∧
( ‥)あなただって昨日のブログに
書いたことは
一昨日、山に散歩へいった
ことと
その時の写真だからな
あんたネタ切れじゃね?
(‥ )まるで絵日記だな
だが体力が無くなったら
山にいけないから
こういう絵日記ネタも
使えなくなるわけよ
そうなったら完全に
ネタ切れだね
それを考えれば世の老人たちがしばしば愚痴を語るだけの代物に成り果ててしまうのは分かろうというもの。
エントロピーが増大するこの宇宙において、生きるということは不自然である。
生はこの宇宙で不自然であるがゆえに、生物は死ぬまで苦闘することとなった。
そのため人の感覚は苦痛と不快であふれている。なれば苦痛と不快を言語化した愚痴はいつまでも湧いてくるであろう。
つまり、宇宙的摂理がゆえに、愚痴だけは、人が自分自身の力で、無限に生産できるネタとなった。
確かに若ければこれに抗えよう。
エントロピー増大の法則は、エネルギーを投入することで局所的には逆らえる。つまりエネルギー生産が高い若者なら、自力で話のネタを作り出し、あるいは探すこともできよう。
しかし探す体力を失った老人はこれを奪われるのだ。
考えてみれば、生きるとは人体が本来の存在である二酸化炭素と水へ緩慢に崩壊する過程でしかない。崩壊過程の後半にあたる老人は宇宙法則に逆らいきれない。崩壊する肉体は苦痛の信号を脳に送り、言語化された苦痛は愚痴となり、愚痴だけが口から溢れかえることとなる。
∧∧
( ‥)老人の話のネタが
愚痴であふれかえるのは
宇宙法則の必然なのである
(‥ )俺はあと20年は
これに逆らえるはずだが
…いやもっと早く限界を
迎えてしまうのかな?
それとも、俺もまた同様に、とっくの昔に死んでしまったか?