2016年6月6日月曜日
認識と解像度の限界を超えて火星運河を潜水する
かつて火星をネットワークのように覆うと考えられた運河。
∧∧
(‥ )細い帯状の模様
\− あるいはそう見えるものは
火星にあるけど
まっすぐで糸のように細い
運河なんてなーい
(‥ )言われた当時からして
ほぼトンデモ仮説だった
みたいだな
ざっと調べた限り、模様ではなく水路としての運河が言われるようになったのは1870年代後半、しかし1900年代に入るとそれは少なくとも研究者の間では怪しげになり下火になり、1930年代にアントニアジが見事な眼視スケッチに基づいた火星地図を発表すると、もう終わったという感じになった。
まあ普通にトンデモ仮説である。
では、どうしてローウェル流の運河なんてものが見えたのだろうか?
当時の望遠鏡の精度が悪かったから? いやいや、もうすでに当時巨大望遠鏡が出来ていた。望遠鏡の口径が大きくなると解像度が上がる。つまり当時すでに精度は関係ない。
∧∧
(‥ )ところがどっこい
\− ローウェル運河派の人たちは
口径の小さな望遠鏡で
見た方が運河が見える! と
主張したという話があるね
(‥ )うん、馬鹿じゃねーの?
確かに言い出しっぺのローウェル自身が、せっかく大口径の望遠鏡を建造しながら、自分が使う時にはむやみに口径をしぼって、実質、低解像度の小型望遠鏡にして使っていた、という話は聞いたことがあるけども。
∧∧
(‥ )みんなしてそれを
\− やっていたら大笑いだけどね
文献によると30センチ
20センチはおろか
口径10センチ台でも
運河を観察した人が
いたみたいだけどね
(‥ )なるほど、阿呆だ
その観察された運河とやらがローウェル流の運河なら、文脈からして現実からしてそうとしか思えないのだが、そんな運河とやら、実在などしないだろう。
∧∧
( ‥)というかあなたの
口径12.5センチの望遠鏡でも
ローウェル運河が見えるって
ことだべよ
挑戦しろよ
(‥ )いやいや無理です
もうあいつら
死んでください
確かにインダス運河とかナイロシルチス運河らしいものとかは見てるけども、これはあくまでも普通の模様だ。確かにこうした運河はハッブル宇宙望遠鏡や探査機の写真からすると、実際にはとぎれとぎれの暗部が帯に見えているものらしい。そしてこれはかつてアントニアジが言ったことでもある。だがしかし、そうであるからこそこれらの運河は実在といえば実在だ。そしてこの手の実在する運河は太い。だから自分の望遠鏡の解像度で見えてもおかしくなかろう。
だが、ローウェルの運河はこれとはまったくの別物だ。糸のように細い運河とか、仮に火星面にそんなものが実在してても無理無理。見えるわけがない。
∧∧
(‥ )まあ昨晩は非常に気流が
\− 良い時があって
土星の環にある
カッシーニの間隙も
見えましたけどね
(‥ )ああいうのが
火星にあったら
見えるだろうけどさ
カッシーニの間隙は
土星の環にある空虚
望むは漆黒の宇宙
つまり
環を作る氷の灰色
そして宇宙の闇
これほど強烈な
コントラストでさえ
気流が良くないと
見えないんだよ?
*カッシーニの間隙:土星の環にある空所のことである。=>https://www.google.co.jp/search?q=cassini+division&biw=1032&bih=843&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwiwpubXjJLNAhUHH5QKHWeSBD4Q_AUIBygC
自分の望遠鏡では気流が良い時にこれを見るのが精一杯。ローウェル流の運河が仮に火星面に実在していても、火星面が裂けてそこから宇宙が見えてるとかじゃない限り、自分の口径では見えるわけがないってことだ。
∧∧
( ‥)でも見えた! と言っていた
人たちがいた
(‥ )明らかになにか別のを
見ているんだな
興味深いことに、最初に細い運河を言い出したスキアパレリ。おそらく彼は視覚の関係で色彩の差を濃度の差と見て、その境界を線として認識したと言われる。その彼の火星地図。これを現在得られている火星の画像と比べると、どうも確かにそう見える。模様そのものというよりも、色の違う領域の境界線を描いているようだ。それも、実はかなり正確かもしれない。
∧∧
(‥ )…他の人たちも
\− そうだったのでしょうかね?
(‥ )ローウェルが言うような
運河のネットワークは
論外にしても
ある一定の割合で
見える人間が現れる
馬鹿とか阿呆とか
ほら吹きとかじゃない
なにかもっと
別の理由があると
見るべきかもな
そりゃ解像度の低い望遠鏡の方がよく見えるとか、そんなことを信じて主張するのは愚かであるにしても、見えたと言い張る人間がある割合で出てくるというのは何かあったと考えるべきかもしれぬ。
もちろん、心霊ブームが起こると悪魔付きが出る。それと同じ理由でも説明できよう。実際、探査機で運河が無い、と分かった瞬間、誰も彼も必要以上に運河を見ないようになったのだ。
しかし、それだけではこの状況、説明しきれぬだろう。
∧∧
(‥ )日本人でローウェルや
\− スキアパレリさん流の運河を
観察した人も
解像度より細かいものでも
存在の有無は分かる
観察は訓練だと
主張していますね
(‥ )これ、個々の指摘は
確かに正しいんだ
だがしかし、この主張はつまるところ、解像度と認識の限界を越えて潜水したということではないのか?
素潜りの限界を超えて、そこまで深く潜って掴んで持ち上げてきたもの、それは一体なんだったのか? それは現実か? それとも別の何かか? そこが問われるのだろう。
∧∧
( ‥)実際の模様ではなく
境界線という刺激を掴んで
上がってきてしまった可能性
(‥ )ローウェル流の運河を
否定した
アントニアジのスケッチが
写真みたいにうまいのが
印象的なんだよな
写真よりスケッチを優先する。それには色々な理由があるが、ひとつには気流の中で揺れる画像を処理する技術が、かつては肉眼以外になかったためだ(今では写真でもできる)。
∧∧
(‥ )それを踏まえると
\− 写真のような
アントニアジさんの絵は
見たままを描いた結果だとも
解釈できますね
(‥ )実際には気流の乱れを
補正しているはずだけど
今風に言えばそうだな
まっとうなソフトで
動作していた
そういうことだろうな
反対に多分、スキアパレリたち、あるいは日本の鋭敏な観察者はもっと別のソフトを搭載していたのではないか、という可能性。
∧∧
( ‥)境界線検出をしてしまった
それがスキアパレリや
ローウェル流の運河だろうと
(‥ )ひょっとしたらさ
視神経に対する
個別の刺激を
全部総合した時
それに見合った図形を
脳内で選んで描いた
と思える絵もあるんだよね
潜水して望みのものを探す際、認識と解像度の限界が近づいた。この時、人はどうする?
ここまでと割り切って一番妥当な解答をそこから組み立てるか?
それとも無理に潜って何かを掴んで引き上げ、これが真実だと叫ぶか?
さあ、なんとするなりや?
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