2015年7月17日金曜日
サーベルタイガーの俗説
サーベルタイガーというと牙が長過ぎて滅びたとか、図体が重いので草食獣が小型化軽量化へと進化するなど、環境が変化するなかで適応できずに滅びたとか言われる。
*つまり、この話の続きであるhilihiliのhilihili: サーベルタイガーは牙が長過ぎたせいで○か×か?
∧∧
(‥ )実際のところ
\‐ サーベルタイガーは牙が
長過ぎて滅びた説は
色々な意味でおかしい
生物は自然淘汰によって
環境に適合するよう
絶えず調整されている
(‥ )長過ぎたら短くなるし
獲物が変化したら
それに合わせて
変化するだけだからな
牙が長過ぎて絶滅した説は
進化を良く理解していない
証拠よな
氷河期の環境変動で滅びたというのもたわ言だ。そもそも氷河期は猛烈な気候変動が何万、何千年とかいうレベルで起こる200万年だった。氷河期で滅びるのならとっくに滅びているし、そもそもサーベルタイガーが滅びたのは氷河期(厳密には最終氷期)が終わっていく、ちょうどそういう時代である。
とはいえ、以上のような俗説はひと世代前には意外とはびこっていた見方であった。
そして、人間の俗説は簡単に更新されたりしない。研究者の見解と一般的な俗説の間には30年は開きがあるし、場合によっては50年、あるいは100年ぐらい前のままってこともある。つまり、僕らの理解のかなりの部分は間違いだらけなのである。
そして俗説は更新されないまま、保存される。
それは、wikipediaを見て、なんか合点がいった=>スミロドン - Wikipedia
∧∧
(‥ )内容が古いと
\‐
(‥ )古いというか...
なんというかねえ
これは2015年7月17日現在の記述だけども、jpg画像に保存した上で引用するとこう。
どこから突っ込めば良いのか分からないけども、
例えばサーベルタイガー(スミロドン)が滅びたのは人類が新世界に到着する以前なのだから、人類がサーベルタイガーを滅ぼしたという説には根拠が無い、という部分。
これに関しては例えば1969年に出たこのような論文がある
=>www.nhm.org/site/sites/default/files/pdf/contrib_science/CS163.pdf
∧∧
(‥ )ランチョ・ラ・ブレアから
\‐ 見つかった
サーベルタイガーのスミロドン
アメリカンライオン
バイソン・アンティクス
これらの骨に
石器で刻まれた痕が
残っていた事例
(‥ )ロサンゼルス近郊で
タールが吹き出て
ぬかるみになった場所
ランチョ・ラ・ブレア
そこから見つかった
化石だな
そして三つとも絶滅種
人間に食われておるがな
新世界のサーベルタイガー(スミロドン)が絶滅したのは1万年あまり前、人類はその何千年も前に到達している。サーベルタイガーも、サーベルタイガーの獲物であった大型動物が滅びたのも、人間が到来して以後のことである。
∧∧
(‥ )サーベルタイガーは
\‐ タールにはまっているから
知能が低い
だから滅びた説
(‥ )これ自体は昔から
ある説なんだ
まあ色々と
おかしな点が
あるけどもね
石油がにじみでてタールと砂がまざったぬかるみ。そこには色々な動物が足をとられて死に、それらは良好な化石になった。スミロドンは化石が多い。知能が低いからぬかるみに気づけなかったのだ、だから滅びたという説なんだが。
∧∧
(‥ )でもランチョ・ラ・ブレア
\‐ から見つかった化石で
一番多いのって
絶滅種の狼ダイアオオカミ
なんだよね
狼は賢い動物だよね
(‥ )肉食獣に関して言うと
化石の数は多い順に
ダイアオオカミ、スミロドン
3位につけるのが
コヨーテなんだよね
コヨーテを馬鹿と呼ぶ人は
あまりいないよなあ
そしてスミロドンより
賢いとされる
アメリカンライオンは
4位なんだが
これも絶滅しているのだ
化石の多さが頭の悪さの指標で、それが絶滅を分けたというのなら、ずいぶんおかしな結果であろう。コヨーテはライオンより馬鹿ということになるし、スミロドンより頭が良いはずだとされているライオンも滅びているのである。
一方、ランチョ・ラ・ブレアから見つかる肉食獣の化石は、異様にダイオアオオカミとスミロドンに偏っている。この二種類が突出して多い。
この理由としては次のような論文がある。
=>Parallels between playbacks and Pleistocene tar seeps suggest sociality in an extinct sabretooth cat, Smilodon | Biology Letters
∧∧
(‥ )この論文は
\‐ ぬかるみにはまった
獲物を独占できるのは
大きな群れを作る肉食獣だ
という論文だね
(‥ )スミロドンと
ダイアオオカミは
大きな群れを武器に
他の肉食獣を
追い払っていた
だから自分たちも事故に
合う可能性が大きかった
そういう説明だな
多分、こっちの方が解釈としては正しかろう。ダイオアオオカミとスミロドンがあまりにも突出して数が多いこと。反対に数が少ないアメリカンライオンが、どうもあまり大きな群れを作らなかったらしいこととも整合的である。
ついでに言えば、何万年もかけて化石が蓄積するのである。10年に1個体が事故にあう。そんな頻度でも20万年の間に2万個体が死に、その10分の1が、歯とか骨1本とか、部分的にせよ化石に残ったとする。するとそれだけで2000個体が産出する計算となる。事故の頻度はそんな高いものじゃない(スミロドンの産出は1100あまりである)。
要するにこうである。
サーベルタイガー(スミロドン)は別に知能が低いわけではないし、原理上、環境にも適合していたし、牙が長過ぎて滅びたわけではないし、絶滅は人間の到来以後に起きたし、それは大型草食獣が根こそぎ抹殺された後であった。さらにいえば、直接の狩りの結果であるかどうかはともかく、人間に食われていた可能性すらある。
∧∧
( ‥)それを考えると
wikiはあまりにも
いい加減?
( ‥)少なくとも日本語版の
‐/ サーベルタイガーの記述は
あまりにも俗説すぎると
思うな
英語版だとかなり
まともだけどね
=>Smilodon - Wikipedia, the free encyclopedia
∧∧
(‥ )で? あなた自身はwikiを
\‐ 編集したりはしないと
(‥ )俺の仕事は
人間の間に格差を
作り出す事よ
本を作るとは
そういうことだ
*付記:ちなみにwikiは英語を見れば良いというわけでもない。英語のwikiも間違いだらけである。典型的な例がこれで=>Scaly-foot gastropod - Wikipedia, the free encyclopedia
ここで使われている学名は存在しない学名だ。
∧∧
(‥ )でもさこの呼び名を
\‐ 使っちゃう人も
いるんだよね
(‥ )記載されていないのに
いつの間にか
はびこっちゃったのだよな
ご丁寧なことに
研究者までこの名前を
学名として
使っちゃうことが
あるんだよねえ
正式な手続きを
経ないものは
すべて無効なんだがな
なんだろうねこれ