同じ電車から降りたその学生はスマートフォンを熱心にいじっていた。中学生ぐらいの幼い外見だが、制服からすると高校生かもしれない。5月だから新入生だろうか?
端正で日焼けした彼は前を見ないで階段へ歩く。
一方、彼女は発車する電車に乗ろうと階段を駆け下りてきた。歳は20代だろうか? 小柄だがぴたっとしたパンツで、妙に体が引き締まって見えた。長い髪、丸みを帯びた整った顔、シャツの胸はかなり大きめである。
彼は車のレースで例えると階段を、外側後方よりインで回り込む感じで歩いていたし、階段を降りる彼女の視線は前方、電車と閉まりゆくドアしか見ていなかった。
ぶつかった時、彼女はごめんなさい、と言って走った。
それなりに大きな胸が自分にむぎゅっと当たった高校生は、スマホを邪魔されてむかついたのか、彼女の後ろ姿をジロッとにらんで、再び画面に目をやって階段を上っていった。
(‥ )一部始終を見た私めが
報告いたします
出会いは
ありませんでした
∧∧
( ‥)そりゃあね
そうだろうね
海岸で星を眺める夜は寒かったが、太陽が昇るとすっかり暑い5月の22日、電車帰り、曇りと青空の天気である。