2014年9月29日月曜日
不老不死の男
パスタを茹でたが、塩を入れ過ぎであった。
∧∧
( ‥)からい?
( ‥)そうねえ辛いねえ
‐□ まあ、カレーだと
思えば別段問題なく
∧∧
( ‥)それ、カルボナーラじゃんよ
( ‥)固い事を言いなさんな
‐□
さて
そういえば思い出した。先日、亡くなったその人は、不老不死を模索していたのであった。
∧∧
( ‥)それだけ聞くと
インチキ宗教か
神秘主義だな
( ‥)まあ似たようなものかな
‐□ 純粋に科学の意匠だけで
しつらえていたけどね
SF的な発想だと昔からあるネタだ。
曰く、遺伝的な調整で老化を押さえる
曰く、知性と精神を機械へ移植する
昨今のネット社会の充実で、ネットへ意識を移す、という、いわば亜流もある。
∧∧
(‥ )でも、あなたはその人に
\‐ 生前言ったよね
不老不死の生物は
進化で生じなかった
むしろ生物は
寿命が設定されている
これは進化的に言うと
不老不死とは不適応で
不利益が大きい証拠だと
(‥ )彼はすごい嫌そうな
顔をしてたな
だから気がついたのだ
ああ、この人、
本気で不老不死を考えて
いるのだな、とね
無限に自分のコピーを作るがゆえに、事実上、不老不死に見える生物も、実際には個体間で遺伝子のやり取りをして、そのたびごとに今までと違う存在になっている。
あるいは、環境の変化でばたばた死んでいくが、休眠状態になってみんなで風に飛ばされ、運が良い、ごく限られたものが適切な場所にたどり着いてクローンを作り、そしてまた大量に死んでいく。これを繰り返すものもいる。
∧∧
(‥ )生物の存続にはどこかで
\‐ 死が組み込まれている
(‥ )つまりだ仮に僕らが
不老不死になったら
死に代わる何らかの死を
発明する必要がある
失った死を補完するために
新しい死を
作り出さねばならぬ
そういうことのように
思えるけどもね
考えてみれば、それに失敗したのが図体ばかりでかくて、何も出来ない会社のようなものなんだろう。何もかもが不適応なのに、自ら変えることができず、巨大な肉体で死ぬ事も出来ず、時間の流れと環境の変化の中で何もかもがずれていき、甘んじて衰亡の道を歩んでいる。
∧∧
( ‥)まあ、会社は
取締役とかが代わる事で
少しずつ変化していくけどね
そもそも構成員である
社員も死ぬからね
(‥ )つまり死なない存在に
見えているが
実際にはそれが
”死”として機能する
それがある限り
会社は同じものに見えて
同じものではない
だがそうではなかったら?
内部に死がない会社は
変化できず剛直なままで
会社全体が滅びと破滅へ
向かう
そうではないか?
会社が倒産するかしないか、組織が駄目になるか、あるいは存続できるほどの柔軟性を持ちうるのか? それは内部に死がちゃんと用意されているかどうか次第かもしれぬ。言い換えると、本当の意味での不老不死、死を内部から放逐した絶対不変の個体というものがあったら、それは福音に見えて、実際には”死”そのものだ。それは、不老不死でありながら死ぬべき運命から逃れられぬのだろう。
少なくとも、一切変る事を許さない、という宣言は、変転する環境の中で流転する生物としてはあるまじきことだろう。つまり不老不死でありながら絶滅への道だ。
実際、そこまで剛直に変化を拒否するとは、むしろ鉱物の結晶ではないか。
肉体そのものが新陳代謝で命の炎を燃やしていても、不老不死となったからには死んだも同然だ。
∧∧
(‥ )新しい事には一切対応できまい
\‐ そういうことになるだろうと
(‥ )そういえば不老不死を
願ったあの人も
ひどく意固地で
頑固になって亡くなったと
聞いたな
確かに不老不死ではあるのだろう。剛直で対応できないとは、そういうことである。
死なないと人は前には進めない。不老不死とは、失敗した死であり、それゆえに生きているとはいえない。そして変化する周囲に押しつぶされ、噛み砕かれて消化されるのだ。