2013年5月30日木曜日
君の夢がお前のすがる最後の緩衝材
人の夢を踏みにじり、それが壊れていく様を見て、砕けゆく甲高い音を聞くのは心地いい。
∧∧
( ‥)おまえの夢も壊してやろうか。
そう言われるかも
( ‥)ああ? おいちゃんの夢は
とっくに壊れちまった。
それをどう壊すって
言うんだよ。
確かに子供の時には夢があった。皆の夢をすべて破壊せよ。
∧∧
( ‥)どうしてそんな夢を
夢見たのでしたっけ?
(‥ )確かな、子供の頃、
誰かに言われたのだ
誰であったのか、それは
忘れたがね。
人には親切にしなさい
∧∧
( ‥)ならば、皆の夢と幸せを
破壊してしまえば良いでは
ないか、と。
( ‥)夢は現実を説明できない
理想論だよね。
つまり失敗した理論だ。
それに拘泥する限り、
人は前に進めない。
その行き着く先は破滅だ。
だから人を救うには夢を
破壊するしかない。
今なら、そう説明するね。
今でもなんでも、動機はそれだ。すべての人の夢を破壊し、みんなの理想と幸せを倒し尽くしたその時、それは地上に降りてくる。
夢が破壊しつくされた夢のような世界。
理想が理想的に根絶された理想的な世界。
灰色の大空とあきらめと失望に覆われ、全員がうつむいて歩き続ける完璧なる理想郷。
∧∧
( ‥)聞けば聞く程、言葉の
矛盾だね。
( ‥)それにだな、実現するには
人類を絶滅させねばならん
それは最低限、自分の一生
ではまったく無理なのだ。
少なくとも数世紀は必要だ
それに気づいて、夢は
あきらめたよ。
はかないもんだよな。
∧∧
( ‥)でも? 人は子供の頃の
夢から逃れることが
できないのだと。
(‥ )夢は、それを諦めたその時
むしろ実現可能な姿に
なりうる。
確かに、確かに。すべての夢を破壊することはかなわぬが、それを認めるのなら、それに妥協できるのなら、ならば喜べ。夢の根絶は無理だ。だが、それは死ぬまで次々に夢を破壊し続けられること意味する。無尽に湧き出る愚かな夢を次々に粉砕する楽しく限られた時間の始まりだ。
∧∧
(‥ )夢を破壊した方が幸せなのか
\– 夢を破壊しない方が幸せ
なのか? 人によっては
手遅れというケースも
ありませんか?
(‥ )能力もなく文才も画力もない
それだのに自分はすばらしい
ものを作れると勘違いし
夢を抱いて上京し、そして
35を過ぎ、40を過ぎ、
50代になった。
代謝は落ちて体は崩れかかった
肥満体になり、太った指は
ペンも筆も満足に扱えず
もう逃げるしか無い。
その彼から今さら夢を奪えと?
∧∧
( ‥)...手遅れじゃね?
( ‥)30代だったら修正が
–□ 効くのだけどね、
40過ぎたらもう駄目だ
ましてや50代ではな
∧∧
( ‥)あなたも色々見ましたよね
( ‥)10年前、まだ30代だった
その時、その人たちは
40代で皆、結婚しようと
必死だったよ
オチは、言うまでもない。そんな泥縄でどうこうなるわけがない。何もかも手遅れなのだ。それに気づかなかった彼らは、40代にしては愚かであったとしか思えない。
それに彼らは繁殖の機会喪失、その恐怖に眼を奪われて、もっと深刻な問題から眼をそらしていた。
∧∧
(‥ )...最近はあの人達の愚痴や
\– 呪いの言葉もあまり
聞かなくなりました
(‥ )老いて機会を失うってのは
そういうものさ。
繁殖の失敗は系統の死だが
老いは個体の死だ。
彼らは自分の老いと死から
眼をそらしすぎていたよ。
組織だったら40代だの50代だの、実はもはや単なる老害でもお情けで職を与えられるし、才能のある人なら体力が尽きてもなお、経験に裏打ちされた対応はまだ使えるだろう。
∧∧
( ‥)でも、それも組織あっての
ことでしかないのだと
( ‥)フリーランスを見れば
分かるだろう?
組織力という緩衝が
なければ40代、50代
なんぞ、
ひとたまりもないさ。
人間、知らずに老いて
いるからな。
言い換えると、組織の中であの人が、50、60でも現役だから、自分も出来るはず、なんて考えてはいけない。そういうことなんだろう。
それが出来るのは組織の中だからだ。外界から緩衝された場所だからだ。本来はそんなこと、人の身では出来ないんである。
∧∧
( ‥)...もう彼にとっては夢だけが
最後の緩衝材なのかも
知れません。
(‥ )夢という嘘が最後の避難所
もっと早く壊してやる
べきだったかもね。
夢を破壊するのは実はごくごく簡単だ。
ただじっと見ていればいい。どいつもこいつも勝手に壊れて、無様な音色を響かせながら、つまらなく、ぐずぐずと壊れていく。
それは当然だ。現実を説明できない非合理な理論だから夢であり、だから夢は必然的に崩壊する。
そして最後はくたびれはてた自分を守る単なる詭弁の鎧に成り果てる。それが夢なのだ。
そんなもの、最初から破壊した方が幸せだったはずだのに、あの時であれば、夢を手放しても歩ける体力がまだあったはずだのに。だが、手遅れになった今は逃げ場という幸せを与える唯一の場所になって、もはや手放せない。
続く=>hilihiliのhilihili: さあ、歩き出そう